第37話 その性根を叩きなおしてやる
「なぁ、やっぱこんなところに村なんてあるはずねぇよ、親父。見ろよ、見渡す限り、特に草木も生えてねぇ」
「まだ荒野のほんの入り口だ。もう少し先まで見てみなければ分からないだろう」
息子の弱気な言葉に、儂はそう言い返す。
「どのみち村にこの冬を超えるだけの食料はない。飢えて死んでしまうだけだ。最後の望みに賭けるしかないだろう」
最近になって、領地で大幅な増税が行われることとなった。
噂によれば、どうやらご領主様がまたどこかと戦争を始めるつもりらしい。
戦乱の時代だ。
こうしたことは珍しくない。
しかし今回は今までで最大規模のものになるらしく、そのためか非常に厳しい増税だった。
だが儂が村長をしているような小さな村では、そんな余裕があるはずもない。
特に今年は不作が祟り、ただでさえ食糧難に苦しんでいたのだ。
このままでは冬を越すことができないと見た儂は、ある賭けに出たのである。
「領主様のご子息が、開拓のためにこの荒野送りにされたと聞く。もし、それに成功していたなら……」
開拓地は税を免除されることが多い。
もし村の何人かでもそこで出稼ぎをさせてもらえれば、どうにかこの冬を凌ぐことができるかもしれなかった。
「そんな夢物語、あるはずねぇって。今まで誰も開拓できずに放置されてきた場所だぜ。たった十かそこらの子供が、ロクに従者も与えられずにこんなとこに放り出されたんだ。きっと政争に負けて追いやられたんだろうぜ。噂じゃ、まるで使えないギフトを授かっちまったそうだしな。どうせすでに野垂れ死んでるか、どこかの領地に亡命してるだろうよ」
息子の言い分ももっともだろう。
しかしだからと言って、何もしなければ死を待つだけだ。
「あー、何で俺、あんな小さな村なんかに生まれちまったんだろうなぁ」
「……」
「はぁ、村には良い女もいねぇしよ……。若いうちに街に行って、冒険者でも始めていれば人生変わってたかもしれないな……」
「……」
……プチン。
好き勝手言い散らす息子に、儂の中の何かが切れた気がした。
「今さらぐちぐち言ってんじゃねぇぞ、このバカ息子がぁっ!」
「っ!?」
「小さな村で悪かったな! あれでも先祖が必死に開拓して作った村なんだが、先祖も今頃お前の発言聞いて嘆いているだろうよ! こんな器の小さな輩が村長の息子だなんてな!」
「お、親父……?」
「だいたい何が冒険者でも始めていれば、だ! そんな勇気もなく、挑戦する前から諦めちまった小心者のくせしてよ! お前なんか、どうせ冒険者になったところで魔物と戦う勇敢さもなく逃げ出してるだろうよ!」
「ちょっ……お、親父……そんなに、言わなくても……」
「いいや、この際だ! 言いたいこと全部言わせてもらう! だいたいお前は自分じゃなんの対案も出せねぇくせに、人のやろうとしていることにはいちいち難癖ばかりつけやがって! 今回だってそうだ! ぐちぐち不満を言って、文句を垂れるだけ! お前がそんなだから、五十を超えてもまだ儂が村長なんてやってんだよ! こんな荒野にわざわざ五十過ぎたじじいが調査に来てんのも、お前が一人じゃ行きたくねぇって言うからだ!」
「っ! お、親父! あれを見てくれ!」
「話を逸らすんじゃねぇ! 今日という今日はお前のその性根を叩きなおしてやる!」
「い、石垣だ! 石垣っ! 荒野のど真ん中に、でっけぇ石垣があるんだよ!」
「ああ?」
息子があまりに必死に指をさすので、儂は仕方なくそちらへと目をやった。
「……石垣?」
「くそっ、親父は目が悪くて見えねぇんだな……。だが間違いねぇ! もしかしたら村があるかもしれねぇぞ!」
「あ、おいっ」
息子が走り出す。
最初は説教を逃れたいから嘘を吐いたのかと思っていたが、後を追いかけている内に、段々とそれが儂にも見えるようになってきた。
「な……ほ、本当だ……本当に、石垣が……」
ここから見る限り、高さは三メートルを軽く超えてそうだ。
しかも左右に延々と伸びている。
村を取り囲んでいるにしては、あまりにも立派な石垣だ。
ちょっとした都市にも匹敵するだろう。
「ちょ、ちょっと待て。あんな石垣を作ろうとしたら、普通は何年もかかるぞ……?」
「だ、だよな、親父」
儂たちは思わず呆然と立ち竦んでしまう。
もしかして、儂らが知らない間に、ずっと前から開拓が進められていたのか?
そう考えなければ説明がつかない。
「と、とにかく、あそこまで行ってみるぞ」
「あ、ああ」
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