第38話 僕の父がすいません

 最近めっきり涼しくなってきた。

 夏が終わって秋になり、段々と冬が近づいてきたからだ。


「ここに来たのは春だったから、もう半年も経つんだね」

「はい、ルーク様。あのときはどうなることかと思っていましたが、まさかこの短期間でこれほどの村を作り上げられるとは。さすがはルーク様です」

「まぁほとんどギフトのお陰だけどね」


 あれからも少しずつ難民がやってきて、いつの間にか村の人口は700人に迫るほどになっていた。


 今や石垣で二重に村を囲っている。

 以前はすべてを石垣の中にまとめていたけれど、二重の石垣を設け、その間に畑を置く形にしたのだ。


 ちなみに多めにスペースを取ったため、まだまだ畑を増やすことができる。

 まぁ、場所が足りなくなったら、石垣を配置移動で動かせばいいだけなんだけど。


 内側の石垣――内石垣の中には、長屋がずらりと並んでいる。

 以前は各長屋には一か所しかトイレがなく、またお風呂が付いていなかったけれど、施設カスタマイズを使って、今ではすべての部屋にトイレとお風呂を付けてあげた。

 同じ長屋でも、これでかなり快適に暮らせるようになったはずだ。


 とはいえ、部屋にお風呂があっても、公衆浴場は未だに連日、大盛況だ。

 人数も増えたので、新たに第二公衆浴場を作ったほどである。


 冬が近づいてくると、食糧の備蓄が気になるところ。

 だけどあれからも順調に収穫できているし、狩猟チームの頑張りで定期的に肉が手に入っている。

 初めての冬も十分に乗り切れるだろう。


 そんなことを考えていると、僕のところへ報告が来た。


「ルーク様。村に二人組の男がやってきたようです」

「難民かな?」

「いえ、どうやらそうではないようです」

「そうなの?」

「怪しい者ではないと判断し、ひとまず村の入り口まで連れてきています」

「ありがとう」


 僕は村の入り口へと向かう。

 するとそこにいたのは、おっかなびっくり周囲を見回している二人組だった。


 片方は五十過ぎ、もう一人は三十歳くらいかな?

 顔が似ているのでもしかしたら親子かもしれない。


「ええと、僕が村長のルークです」

「あ、あなたがっ……」


 高齢の方の男性が慌てて地面に膝を突き、頭を下げてきた。

 それを見て若い方も跪く。


「わ、我々はここから南にあるマオという村から参りました。村長のマックと、こちらは息子のマンタと申します」


 南?

 ということは、アルベイル領の方からかな?


「その……あなた様はもしや、アルベイル卿のご子息の、ルーク様では……?」

「僕のこと知ってるんですか?」

「や、やはり! 何でも、アルベイル卿の命を受けて、この荒野の開拓にいらっしゃったとか。しかし、この様子から察するに、随分と前から開拓に取り組んでおられたようですね」

「いえ、そんなことないですよ。僕が来たときには本当に何もなかったので」

「……?」


 何を言っているのか、という顔をしている。

 でも本当なんだよね。


「じゃ、じゃあ、やっぱ単に追放されただけ……? 役立たずなギフトを授かったって噂は本当だったのか……」

「こらっ、なんてことをっ……」

「あ、大丈夫ですよ。息子さんの言う通りなので」


 僕は彼らに軽く事情を説明した。


 父上の『剣聖技』というギフトを僕は受け継ぐことができず、代わりに弟が受け継いだこと。

 名ばかりの開拓を命じられ、実質、追放される形でこの荒野に来たこと。

 何だかんだあって村づくりが上手くいったこと。


「それで、お二人はなぜここに?」

「じ、実はですね……」


 今度は僕が話を聞く番だった。

 二人は今のアルベイル領の現状と、それによる村の困窮について教えてくれた。


 内容的に領主批判を伴うためか、最初は言い辛そうにしていたけれど、すでに僕は実家と縁が切れてるような状態なので遠慮は要らないと告げたことで、次第に憤りの籠った口調になっていった。


「戦争に勝って領地が広がったところで、儂らの生活が良くなるわけじゃねぇ! なのに税だけは容赦なく取っていきやがって……っ! 結局、儂ら領民のことなどまるで考えてねぇんだ!」


 よほど鬱憤が溜まっていたのだろう。

 ついには顔を真っ赤にして叫び出してしまう。


「お、親父っ……」


 さすがに領主の子の前でヒートアップし過ぎだと思ったのか、息子さんは僕の顔をちらちら見てはおろおろしている。


「えーと……僕の父がすいません」


 申し訳ないので代わりに謝っておいた。

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