第36話 暑苦しいだけさね

「「「ルーク様! どうか我々にもお手伝いをさせてください!」」」


 もしかしてこの村から逃げ出したいがために嘘を言っているのかとも思ったけれど、それにしては全員、目がぎらぎらだ。

 あのときは死んだ魚のような目だったのに……。


 一応、村人鑑定で彼らの愛村心を調べてみると、なんと五人とも「超」になっていた。


「ルーク様、ご心配なく。彼らは今や忠実なる神の僕となりました。嘘偽りを口にすることはありません」

「ミリア? ええと……一体どうやったらこんな短期間にここまで変えられるの?」


 おばあちゃんもすごいけど、ミリアも何気にすごいよね。

 ミリアが教会で礼拝を始めてから、今や村人の大半の愛村心が「超」になっちゃったし。


「すべては神の御業です」

「そ、そう……」


 いつの間にかすっかり敬虔な神官になってしまった。

 今もまるで神様を見つめるような尊崇に満ちた瞳をしていて――って、何でそれを僕に向けているの……?

 いや、気のせいかな?


 ということで、狩猟チームに元盗賊たちが加わって、難民たちが残してきた老人たちを迎えにいくことになった。


 さすがに武技系のギフト持ちが全員いなくなると村の防衛能力が心配なので、バルラットさんにだけは残ってもらうことにした。







 狩猟チームが出発してから数日後。

 無事に村へと戻ってきた。


「「親父!」」

「おおっ、ベルリットにバルラット! 生きておったか!」

「「親父の方こそ!」」


 ベルリットさんたち兄弟が、村に残してきたお父さんとの再会を喜んでいる。

 元の村では村長をしてた人だね。

 どうやら無事だったみたいだ。


 そんな感じの感動の再会が、あちこちで繰り広げられていた。

 もしかしたらもう一生、会うことができなかったかもしれないのだ。

 涙を流して再会を喜ぶのも当然だろう。


「なんだい、あんた。生きてたのかい。てっきり、もうとっくにおっ死んじまったと思ってたけどね」

「おお、ばあさん! 無事だったのか!」

「こら、くっ付いてくるんじゃないよ、鬱陶しい。じじいに抱きつかれても暑苦しいだけさね」


 拷問官のおばあちゃん……旦那さんがいたんだ……。

 おばあちゃんと違って随分と温厚そうな人だね。


 どうにかこれで家族一つに……とはいかない。

 残念ながら戦争のため徴兵された人たちは、まだ戻ってきていなかったからだ。


 彼らが村に帰ってきたときのために、一応書置きはしてきたという。


「それはそうと……なんかやけに多くない?」


 四つの村を合わせても、老人の数はせいぜい五十人ほどと聞いていた。

 だけどぱっと見でその四倍はいる気が……しかも普通に若い人が沢山いる。


「途中で難民を見つけたから連れてきたのよ」

「そうなんだ、セレン。道理で……あれ? あそこにいる縄で縛られた人たちは?」


 さらに一団の端っこに、なぜか縄で捕縛された集団の姿があった。

 数にして三十人ほど。


 見た感じ、堅気ではなさそうな人相をしているけど……。


「盗賊団よ。襲いかかってきたから返り討ちにしたの。しかもよく見たら、この間、捕まえ損ねた連中だったわ」


 どうやら大半がこの村が捕らえた盗賊団の元メンバーたちらしい。

 団の主力たちがごっそり抜けたことで、その残党たちが立ち上げた新たな盗賊団だったようだ。


 そんな彼らと、更生された元盗賊たちが何やら言い合っている。


「おい、お前ら感謝しろよ! 盗賊の身で、ルーク様の治めるこの村に入ることができたんだからな!」

「一体どうしちまったんだよ、お前らっ? まるで別人じゃねぇか!」

「俺たちは知っちまったんだよ、ルーク様の偉大さをな」

「も、もしかして……洗脳されたんじゃないだろうな……?」

「はは、洗脳か。洗脳されてルーク様の素晴らしさを理解できるってのなら、幾らでも洗脳されてやるぜ」

「っ……やっぱりだ……やべぇよ……こいつら完全に……」

「心配するな。お前たちもすぐに分かるから」

「ひっ……や、やめてくれっ……」


 めちゃくちゃ怯えているけど……何の話をしているんだろう?


 ともかく、あの盗賊たちは牢屋に入れておくことにしよう。

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