第60話 オレの力が必要みたいだな
ビュンビュンビュンビュン!
エルフたちが一斉に矢を放つ。
それが次々とオークキングの巨体に突き刺さったけれど、皮膚や肉が分厚いせいか、オークキングはただ苛立つだけで、あまりダメージを受けたようには見えない。
そこへ斬り込んでいったのはセレンだ。
オークキングが腕を振り回し、セレンを殴りつけようとする。
それをすんでのところで躱し、セレンは至近距離から魔法を放った。
オークキングの右足から氷の矢が生えたけれど、それも大して効いている感じはしない。
ていうか、セレンの戦い方、見ていてハラハラするからやめてほしい!
「おれたちの、後ろに……っ!」
「セレン殿は後方からの魔法攻撃を!」
彼らもそう思ったのか、盾役のノエルくんとゴアテさんが慌てて前に出ていった。
オークキングの攻撃を二人が受け止めて、矢や魔法などの遠距離攻撃を主体にダメージを与えていく。
そして時折、隙を突く形で剣や槍などで攻撃、という戦法がすぐにできあがった。
ただ、盾役の二人の負担が大きい。
オークキングの攻撃を何度も受け止めて、時には弾き飛ばされ、傷だらけになりながらも立ち向かっていく。
「ノエル! まさか、もう限界ってんじゃねぇだろうな! 『盾聖技』なんて大層なギフトがありながら、パワーだけの俺より先にへばるんじゃねぇぞ!」
「まだまだ……やれる……っ! この村をっ……おれが、護るんだ……っ!」
ゴアテさんの叱咤に、ノエルくんが咆える。
二人とも、もうとっくに限界が来ているだろうに……。
希少なポーションを使ってでも回復してあげたいけれど、生憎そんな余裕もない。
「くっ……このままじゃ……」
戦況の悪さを感じているのか、魔法を放ちながらも、セレンの顔が焦燥で歪む。
と、そのときだ。
「どうやらオレの力が必要みたいだな」
「っ!? あんたは……」
そこへ現れたのは、オークに匹敵する巨漢。
盗賊団の親玉だった男、ドリアルだ。
その手にはノエルくんたちと同じ大盾があった。
「盾の扱いは得意じゃねぇんだが……まぁ、オレ以外に適任はいなさそうだし、仕方ない」
「あんたが、どうして……?」
「言っただろう。オレの力が必要なときがきたら、そのときは手を貸してやろうってな。今がそのときじゃねぇのか?」
そう言って鼻を鳴らすと、ドリアルは大盾を構えてオークキングへと突っ込んでいった。
「おらあああああっ!」
「……っ!?」
あのオークキングの巨体が、ドリアルのシールドバッシュを受けて大きくバランスを崩す。
僕の思った通りだ。
オークキングを相手に盾役が務まるとしたら、この元親玉しかいない。
『サテン、助かったよ』
『まさか、本当に親分が村のために動くとは思いませんでしたが……』
実はサテンを通じて、ドリアルに加勢を求めていたのだ。
牢屋から出すのに不安はあったけれど、ひとまずこれでノエルくんたちの負担が減ったはず。
「ぐがあっ!? くそっ! このデカ豚、力強すぎだろう!? こんなもん、長くは耐えられねぇぞ!?」
……あ、でも、二人と比べたら全然頼りないや。
幾ら体格がよくても、ギフトは『斧技』だし、さすがに二人と同じ働きを求めるのは酷だよね。
それでも盾役が三枚になったことで、先ほどまでよりずっと安定した戦いができるようになった。
盾の間を縫って、ランドくんが槍で突く。
バルラットさんやペルンさんは背中を斬りつけては素早く離脱するという、ヒット&アウェイで確実にダメージを与えていく。
セレンの他にも、魔法系のギフト持ちたちは魔力の枯渇も厭わず、先ほどから延々と魔法を放ち続けている。
絶え間なく矢を撃ち続けているフィリアさんたちも、何度も何度も弓を引いてきたせいか、指から血を流している。
「ブ、ブルア……ァッ!」
みんなの頑張りで、キングオークには確実にダメージが蓄積されていた。
全身は血だらけで、時々ふら付いている。
それでもまだその怪力は健在で、振り回した腕が盾ごと前衛を弾き飛ばすほどだ。
僕は祈るような気持ちで、彼らの戦いを見守っていた。
「みんな、あと少しだから……あと少しで……」
と、そのときだ。
〈デイリーボーナスにより、1214村ポイントを獲得しました〉
よし、来た!
毎日のボーナスで加算される村ポイント。
村人の数が増え続けた結果、今や1000ポイントを大きく超えている。
「みんな、そこから離れて!」
「「「っ!」」」
僕の言葉に反応し、皆が一斉にキングオークから距離を取る。
その動きの早さは、何をするかも説明していないというのに、僕のことを信じてくれているからだ。
「ブルアアアアアッ!」
逃がすまいと後を追いかけようとしたキングオークだったけれど、その眼前に僕は石垣を作り出した。
今までで最も分厚くて高い、たとえキングオークだろうと簡単には破壊できない代物だ。
「ッ!?」
危険を感じ取ったのか、慌ててその場から逃げようとしたキングオークの進路を塞ぐよう、僕は新たな石垣を作成。
それも「コ」の形をした特殊な石垣だ。
先ほどの石垣と合わせて完全包囲される形となったキングオークの困惑が、分厚い石垣越しに伝わってくる。
石を叩く音も聞こえてくるけれど、
「無駄だよ」
武器を作ったときのように、施設カスタマイズを使って、石を思い切り圧縮させる。
強度を大幅に増したそれを、幾ら怪力のキングオークと言えど、素手では表面に傷をつけることすら容易ではないだろう。
「そして、頭上に物見塔、と」
さらに僕は「ロ」の形に配置された石垣の
後は施設カスタマイズを使い、物見塔を前後左右に圧縮していけば、当然、石垣で作られた穴よりも小さくなった段階でそこに落ちていく。
「物見塔はすべて石でできているからね。多分、相当な重量だと思う」
それが頭上から降ってくるのだ。
幾らオークキングと言え、一溜りもないはず――
「ブ、ブヒイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!?」
――グシャッ!
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