第115話 君の負けだよ

「黙れっ! まだ俺は負けてなんかいねぇ!」


 降伏を勧告するセレンを、ラウルはそう突っ撥ねた。


「負けてないって……この状況を見て、よくそんなこと言えるわね?」

「……っ!」


 そんなやり取りをしている間にも、村人たちの頑張りで、最後まで残っていたラウル軍の精鋭たちが次々と倒れていく。


「ぐ……なんて、強さだ……」

「どこがただの村人だよ……ガクッ……」

「ラウル様……申し訳、ありません……」


 一方で、村人の負傷者はほとんどいない。

 いたとしても、エルフの回復魔法ですぐに治療されていくので、ラウル軍だけがどんどん戦力を失っていく。


「つーちゃん、お疲れっす! もう大丈夫っすよ! ありがとうっす!」

「~~~~♪」


 ネルルに誘導されて、後方の兵士たちを散々蹂躙し切ったツリードラゴンが満足そうに畑へと帰っていった。

 ここまで来た兵士のうち、半分以上を倒す大活躍だ。


 ラウル軍はもはや壊滅寸前である。


「元々五千もいたのに、この有様よ。誰がどう考えてもあなたの敗北でしょ」

「う、うるせぇ……俺は……俺はっ……あいつにだけは、絶対に負けるわけにはいかねぇんだよおおおおっ!」

「っ!?」


 突然、ラウルが咆哮を轟かせたかと思うと、その全身が謎の光に覆われていく。


「ルークううううっ! てめぇをぶち殺せばっ……俺の勝ちだああああああああっ!!」


 血走った目で僕を睨み、ラウルが全身を発光させたままこちらへと猛スピードで突っ込んできた。


「な、なんという凄まじい闘気だっ! ルーク殿っ! すぐに避難をっ!」


 フィリアさんの叫び声が聞こえてくる。

 と同時に彼女が放ったらしい矢がラウルに直撃したけれど、なぜか矢が粉々に砕け散ってしまった。


 なに今の!?

 もしかしてその闘気ってやつの力っ!?


「村長っ!」


 僕の前に割り込んできたのは、ノエルくんだ。

 先ほどと同様、ラウルを弾き返そうと、盾を構えたまま突進していく、


「シールドバッシュっっっ!!」

「俺が二度もやられると思うなぁぁぁっ!」


 凄まじい轟音とともに激突する。

 今度はラウルが吹き飛ばされたりはしなかった。


 それどころか拮抗し――いや、ラウルが押している!?

 慌ててノエルくんの強化倍率を上げようとしたけれど、遅かった。


「~~~~っ!?」

「ノエルくん……っ!?」


 弾き飛ばされたのはノエルくんの方だった。

 少し速度は落ちたものの、ラウルはそのまま僕の方へと向かってくる。


 僕を護る人は誰もいない。

 もはや絶体絶命――なんてことはなくて、


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!


 僕は目の前に城壁を作り出していた。

 直後に、ドオオンッ! という爆音が響いて城壁が揺れたので、恐らくラウルが壁の反対側に激突したのだろう。


 ちょっ、衝撃凄すぎ!

 あのまま突進を喰らっていたら、僕なんて一溜りもなかった。


 でも、さすがにこの分厚い城壁をぶち破ることは不可能だったみたいだ。

 力尽きてしまったのか、侵入者感知で確認してみると、ラウルは城壁の半ばまでめり込んだところで止まっている。


「く、クソが……俺はまだ……負けて、ねぇ……」


 あ、動き出した。

 どうやらラウルはまだ戦意を失っていないらしい。


 一体なにがそんなに彼を突き動かしているのか。

 僕には分からないけれど、生憎と僕だって負けてやるわけにはいかないのだ。


 ゴゴゴゴゴゴ――


 僕はたった今作り出したばかりの城壁に施設カスタマイズを使い、ゴーレムへと変形させた。


「…………は?」


 突如として目の前に現れた巨大な人型のゴーレムに、ラウルが呆けたように口を開ける。

 先ほどの発光はすでに収まりつつあって、動きも少し緩慢になっていた。


「ラウル、悪いけど、君の負けだよ」


 ゴーレムが拳を振るう。

 咄嗟に剣でガードしたラウルだったけれど、そのまま十メートルくらい先まで吹き飛んでいった。


「い、いや、だ……俺は……てめぇに、だけは……負けられ……ね……ぇ…………」

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