第114話 ただの村人だが

「がぁっ!?」


 盾に激突して吹き飛ばされ、地面を何度も転がるラウル。


「「「ラウル様!?」」」


 先頭に立って敵陣に切り込んでいった大将が、跳ね飛ばされて戻ってきたのだ。

 すぐ後方を走っていた兵士たちは愕然として思わず足を止めてしまう。


 しかも『剣聖技』のギフトを持ち、先の戦場で無類の強さを誇ったラウルの存在があればこそ、彼ら精鋭たちもここまで士気を保ち続けられたのである。

 そうでなければ、この前例のない戦いの途中でとっくに心が折れていただろう。


 そんな大将が、たった一人の敵兵に弾き返されたのだから、兵士たちの間には大いに動揺が走った。


「馬鹿なっ……この俺がっ……」


 ようやく身を起こしたものの、自分の身に起こったことに戸惑いを隠せないラウル。

 その隙を突くように、敵の大将――ルークが号令を下した。


「みんな準備はいい!? よし、突撃っ!」

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」


 凄まじい鬨の声を轟かせ、混乱して動きを止めていたラウル軍へと攻めかかってきた。


「む、迎え撃てぇぇぇっ!」


 ラウルが慌てて叫んだときにはもう、両陣営が激突していた。


 敵は二百。

 一方こちらはもう百程度しか残っていないものの、歴戦の強者たちだ。


 戦闘系のギフトを持つ兵士も多く、幾ら不意を打たれたとはいえ、移民を集めただけの烏合の衆に負ける要素など絶対にない。

 ――はずだったのだが。


「ぐあっ!?」

「ぎゃあ……っ!?」

「な、なんだ、こいつらっ!? 強すぎぶごっ!?」


 ラウル軍が完全に圧倒されていた。

 それも、単に敵の方が数で勝るから、というだけではない。


 一対一ですら、ラウル軍の兵士たちが押されているほどなのだ。


「な、何者だ、貴様はっ!? ギフト持ちの私と互角に渡り合うなど……っ! 名のある武人がこんな荒野に隠れていたというのかっ?」

「いや、ただの村人だが?」

「ただの村人がそんなに強いわけないだろう……っ!?」


 ギフト持ちの兵士ですら、敵兵に苦戦している。


「あ、あり得ねぇっ! 一体どうなってやがる……っ!? こんな荒野の街に、これだけの戦士たちがいるなんてっ……」

「ラウル、見ての通りあなたに勝ち目はないわ。これ以上は無駄な戦いよ。すぐに降伏を宣言しなさい」

「っ……てめぇはっ……セレンっ!」


 困惑のあまり動きが止まっていたラウルの前に現れたのは、青い髪の少女だった。


「やはりルークのとこにいやがったのか……っ!」



    ◇ ◇ ◇



 村人の数が一万人を超え、レベルアップしたときに習得したスキル「村人強化」。

 これは簡単に説明すると、一時的に村人のステータスを上昇させるというものだった。


 強化レベルに応じて持続時間が異なっているのだけれど、例えば能力を二倍にすると、持続するのは五分ほど。

 一・五倍だと10分くらいだ。

 そしていったん切れてしまうと、その後、一時間ほど再使用が不可能になる。


 同時に何人まで、という制限はない。

 だから集めた二百人全員を一度に強化することも可能だった。


「邪魔だ……っ! 盾ごと、そのでかい図体を斬り捨ててやる……っ!」

「村長を、護る!」

「(ノエルくんを強化!)」


 迫りくるラウルに、僕を護るように立ち向かっていくノエルくんへ、僕は村人強化を施す。

 ノエルくんは『盾聖技』のギフトを持っていて、素の状態でも十分の強さなので、ラウル相手でも一・二倍くらいで十分だと思う。


「シールドバッシュっっっ!!」

「~~~~っ!?」


 ノエルくんがラウルを大きく吹き飛ばした。

 まさか『剣聖技』ギフトを持つ大将がこんなにあっさり弾き返されるとは思っていなかったのか、敵兵が愕然として足を止める。


 すかさず僕は号令を出した。


「みんな準備はいい!? よし、突撃っ!(みんなを強化!)」

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」


 一・五倍に強化された村人たちが、雄叫びとともに敵陣へ襲い掛かった。

 二百人のうち半数以上がギフト持ちで、残りは元盗賊だったり冒険者だったりと荒事に慣れた者たちだ。


 相手はここまで残った精鋭の兵士たちだと思うけれど、ただでさえこちらは倍の兵数で、しかも各々が一・五倍に強化されているのである。

 敵軍を完全に圧倒した。


 そんな中、セレンがラウルと対峙し、降伏を促すのだった。

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