第357話 またあたしの出番みたいだねぇ

「ちょっと、何なのよ、これは!?」


 金属製の巨大な物体を前に、セレンが叫ぶ。


「戦利品?」


 巨人兵を四体、村に持ち帰ったのだ。


「え? 戦争中のローダ王国に行ってた? そこで使われてた兵器? なんで勝手にそんな危険な真似してるのよ!」

「影武者を使ってたから大丈夫だよ」


 ちなみに瞬間移動では普通、こうした大きな物体を運ぶことができない。

 服とか身に着けられるものや、手に持てるレベルの物体までしか、一緒に瞬間移動させられないのだ。


 だけど不思議なことに、中に乗り込み、操縦席に座っていると、なぜか巨人兵ごと瞬間移動することが可能だった。

 もしかしたら装備しているという判定になるのかもしれない。


「っ! これは……っ!」


 とそこへ小柄な少女がやってきて、この巨人兵を前に目を見開く。

『兵器職人』のギフトを持つドワーフの少女、ドナだ。


「ドワーフの先祖のっ……古代兵器……っ!」


 普段はほとんど感情を露にしないドナが、珍しく大きな声で叫ぶ。

 そして巨人兵に駆け寄っていった。


「不思議な金属でできてるっ……触っただけじゃ、構成が分からないっ……ここから乗り込めそう!」


 そのまま巨人兵の中に入り、操縦席へ。


「すごい……っ! 操縦もできるっ? 村長……っ! どこで見つけた……っ?」

「クランゼール帝国っていう、大陸の南にある国で、どこかの遺跡から発掘したみたい。それを修繕して、兵器として運用してるそうだよ」

「ん! ……? おかしい。起動しない?」

「そうなんだよね。実はその一機だけじゃなくて、他のもまったく動かないんだ。穴に落ちたときに壊れちゃったのかな?」

「……」

「まぁ、詳しいことは、この人たちに聞いてみたらいいよ」


 縄で縛りつけ、動けなくした巨人兵の四人の操縦士たち。

 穴に落ちて気絶していたところを捕らえ、巨人兵と一緒に村へ連れてきたのだ。


「ここはどこだ!? 我々はなぜ捕まっている!? ローダの王都に攻め込むため、城壁を破壊したはずだが……」


 どうやら穴に落ちたところから記憶がないらしい。


「それより、あの兵器、起動しないんだけど、どうして?」

「はっ、それを貴様らが使おうとしても無駄だぞ。あらかじめ登録した操縦士にしか、操作できないようにしてあるからな」

「なるほど……」


 認証システムがあるようだ。


「でも、発掘されたときには古代の操縦士が登録されてたんでしょ? つまりそれを解除して、改めて登録しなおしたってこと」

「くくく、少しは理解力があるようだな。だが、同じことだ。我が国の発達した技術力があってこそ、何千年という時を超えて、あの兵器を蘇らせることができたのだ。それでも数十年を必要としているほど。そう簡単には……」

「ん、解除できた。再認証」

「……へ?」


 ういいいいいいいいいん、という起動音を響かせながら、巨人兵が動き出す。


「う、動いたあああああああああああっ!? 馬鹿なっ!? そんなはずは……っ!?」


 絶叫する操縦士。

 一方、ドナは操縦席から降りてくると、


「細かく仕組みを調べたい。村長、解体していい?」

「別に構わないけど……どうする気?」

「ん。頑張れば、一から製造できるかも」


 ドナの言葉に、操縦士が声を荒らげる。


「そ、そんなことできるわけがないっ! 我が帝国でも、何年も前から新造機の製造を試みているが、未だに成功していないのだぞ!?」

「ドワーフの先祖が作った。同じドワーフならきっとできる」

「っ……そうか、貴様はドワーフか……っ! くくく、まさか、我々から巨人兵を奪っておいて、ただで済むと思っているのではないだろうな!? 確実に帝国軍が総力を挙げて取り戻しに来るぞ! そうすれば貴様らは終わりだ! いや、ドワーフどもの命だけは助けてもらえるかもしれないな! 無論、我が帝国のために死ぬまで働いてもらうことになるだろうがなァ!」


 残念だけれど、むしろ彼ら操縦士たちにこそ、この村のために働いてもらおう。


「ネマおばあちゃん。この人、更生させてくれる?」

「いっひっひっひ、またあたしの出番みたいだねぇ」


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