第34話 あっさり流された

「おかしい……」


 夜。

 僕はベッドの上で首を捻っていた。


 家屋・中にグレードアップしたことで、以前より大きなダブルベッドのサイズ。

 だから三人並んで寝ても、それほど狭さを感じない。


 でも問題はそこじゃなかった。


「どうされましたか、ルーク様?」

「何がおかしいのよ?」


 ミリアとセレンが、不思議そうな顔で訊いてくる。


「いや、とぼけないでよ! 君たちのために新しくベッドを作ったのに、何でまだ僕のベッドで寝るつもりなの!?」


 施設カスタマイズを使って、わざわざベッドを二台増やしたのだ。

 もちろんちゃんとそのことは伝えてある。

 なのに、二人はしれっとまた僕のベッドにやってきたのである。


「ルーク様。早く寝ないとお体に障りますよ?」

「あっさり流された!?」

「そうよ。騒いでないで早く寝ましょ」

「セレンまで!」


 くっ……この二人、是が非でもここで寝るつもりだな……。


「分かったよ。じゃあ、僕が別のベッドで寝ればいいんでしょ?」


 そう言ってベッドから逃げようとしたら、がっしり身体を掴まれた。


「どこに行かれるんですか、ルーク様?」

「ちょっとトイレに……」

「さっき行ってたでしょ」

「ぐ……」

「さ、ルーク様」

「おやすみ」


 有無を言わさぬ彼女たちに、ベッドへと引きずり込まれてしまう僕。

 ……普段は仲が悪い癖に、こういうときだけチームワークがいいから困る。


「はぁ……分かったよ……」


 僕は観念して、結局いつものように二人に挟まれて寝ることになったのだった。







「セレンたち狩猟チームが帰ってこない……?」

「は、はい。いつもであれば、すでに戻ってきているはずの時間なのですが……」


 その日、北に広がる魔境の森に狩りに行っていたセレンたちが、なかなか村に戻ってこないということで、ちょっとした騒ぎになっていた。


 夜の森は危険だ。

 だから余裕を持って、いつも夕方までには狩りを終えるようにしていた。


 それが今日は、陽が暮れかけ、周囲が薄暗くなり始めているというのに、まだ帰ってきていない。


「うーん、セレンたちのことだし、そんなに心配は要らないと思うけど……」


 ちなみに難民第四陣が加わり、その中には何人か武技系のギフト持ちもいて、狩猟チームは現在、十五名にまで拡張している。

 僕が施設カスタマイズで作り出した武器もあるため、装備もばっちりだ。


 最近はよく、アルミラージというウサギの魔物を狩ってきていた。

 ウサギというと可愛らしいイメージだけれど、頭に鋭い角を持ち、体長は一メートルを超える巨大で狂暴なウサギだ。


 しかも動きが素早く、熟練の戦士であっても苦戦するほど。

 ただ、セレンを筆頭に武技系のギフト持ちの多い狩猟チームにかかれば、狩るのはそう難しくないようで、多い日には一度の狩りで二、三匹を捕まえてくることもあった。


「村長! 狩猟チームが戻って来たようです!」


 そんなことを考えていると、物見塔の方から報告があった。


「しかも、何やら巨大な獲物を担いでいるとのこと!」


 しばらくすると、セレンたちが村に帰ってきた。

 確かに、二つの巨大な何かを担いでいる。


「お、オークだ……!」

「狩猟チームがオークを狩ってきたぞ!」

「な、なんてデカさだ!?」


 それは豚頭の魔物、オークだった。

 た、確かにデカい……。


 身長はたぶん二メートルを超えている。

 その上、筋骨隆々で、あの盗賊の親玉に勝るとも劣らない巨漢だ。

 それが二体も。


 ていうか、そのうちの一体を、『巨人の腕力』のギフト持ちが一人で抱えてるんだけど……。

 その怪力にも驚かされてしまう。


「オークを狩ってたら遅くなっちゃったわ」


 セレンは何でもないことのように言ってくるけど、たった一体であっても、襲われたら小さな村なんて一溜りもないような危険な魔物なのだ。


 だからオーク肉はほとんど市場に出回ることがなく、豚肉の何十倍もの値がつく超高級肉である。


 それが丸ごと二体分も……。

 うん、もちろん食べる以外に選択肢はないよね。


「よし、今日はバーベキューだ! みんなでオーク肉をたらふく食べよう!」


 僕が声を張り上げると、村人たちが歓喜の声を上げた。


「俺たちもオーク肉を食えるのか!?」

「お貴族様の食べ物だとばかり思ってたが……」

「さすがはルーク村長! 一生ついていきます!」


 いやいや、期待し過ぎだって。

 一応、実家で食べたことがあるけど、所詮ちょっといい豚肉って感じだったよ。


 そんなふうに思いつつ、僕は焼き上がったオーク肉をパクリ。


「~~~~~~~~~~~~っ!?」

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