第331話 どんどん配っていきましょう
そもそもこのキョウという国自体が、歴史は長けれど、あまり裕福ではないらしい。
貴族に相当する公家であっても、かなり清貧な生活をしているという。
「元より治癒士は数が少ないからの。これだけ病が蔓延してもうたら、到底手が足りひん。詐欺まがいの怪しげな治癒士に騙されたとか、変な薬を飲まされて余計に悪化したとか、酷い話もようさん聞いとる」
ガイさんのお父さんが、嘆くように言う。
どうやら思っていた以上に深刻な状況のようだ。
とそこへ、ガイさんが戻ってくる。
「あ、ガイさん、どうでしたか?」
「無事に治療が終わり申した」
少し遅れて、ガイさんそっくりの男性が出てきた。
ただし髪の毛はある。
やつれた様子ではあるけれど、流行り病の特徴だというイボは見当たらない。
「明権っ! 大丈夫なのか……?」
「はい、父上。明凱のお陰で全身のイボが消えて、身体も楽になりました」
ガイさんの回復魔法が効いたらしい。
ただ、随分と魔力を使ってしまったようで、肩で大きく息をしている。
その姿を見て、ガイさんのお父さんは神妙な顔で切り出した。
「……明凱、どうやらたった一人を治すだけでも一苦労だったようじゃの。つまり、お前ひとりの力など、ここまで蔓延した病の前では微々たるものでしかないということ」
「そうでありましょう」
「下手をすれば、おまえ自身が病に侵され、命を落とすやもしれぬぞ?」
「覚悟の上であります。……と、言いたいところではありますが」
「?」
そこでガイさんが僧衣の中から何かを取り出す。
キュアポーションだ。
「父上にぜひご紹介したいのが、こちらの薬! なんと、かの有名なエルフが生成したポーションであります! 特に病気などの治癒に特化したこちらを飲めば、流行り病などあっという間に完治間違いなし!」
なんだか胡散臭い通販番組のように主張するガイさん。
いや、実際その効能は折り紙付きなんだけど。
「ポーションやと……? そんな薬で、流行り病を治せるんか……?」
「拙僧が保証いたそう」
ガイさんは力強く頷いた。
キョウ国の人たちからすれば、すぐには信じられない話だろう。
さっき詐欺師から怪しい薬を買わされた人もいるって言ってたし。
でも、先ほどお兄さんの病気を治したお陰か、ガイさんのお父さんも含めて、縋るような目でポーションを見ている。
僕は訊いてみた。
「ひとまず試してみてはどうですか。誰か他に患者さんがいたりしませんかね?」
「一応、使用人に何人かおるが……しかし、貴重なものなのじゃろう?」
「大丈夫ですよ。今うちの村で量産しているところですし」
そうしてキュアポーションを流行り病に罹った使用人たちに飲んでもらったところ、やはり劇的な効果があった。
「これで流行り病にも効くことが確定したし、あとは罹患者全員に飲ませるだけだね」
「ぜ、全員っ!? そんなことが可能なんか……っ!?」
「はい。人数分の用意はできるはずです。ただ、街のあちこちにいる罹患者を把握するのは難しいし……せめてどこかに集まってもらえれば楽なんだけれど……」
「…………それならば、わしに任せてもらってもよいかの? 仮にも公家の一員として、なんとかしてみるのじゃ」
「ほんとですか? お願いします」
数日後、街の各所にある神社に、大勢の罹患者たちが詰めかけていた。
「たくさん集まりましたね」
「うむ。神皇陛下にあの薬の効能を認めてもらい、陛下の名で街中にお触れを出してもろうたのじゃ」
ガイさんのお父さんが疲れたような顔で頷く。
あちこちを説得するために奔走してくれたのだろう。
公家といっても下級らしいし、直でトップに話を持っていくわけにもいかないはずだ。
こういう古い宮廷とか、面倒な政治的駆け引きが激しそうだし。
「では、キュアポーションをどんどん配っていきましょう」
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