第334話 ほんもんやろか
エドウ、オオサク、そしてキョウの三国の旅を終えて、僕たちは村へと戻ってきた。
「山脈の向こう側に、こんなどえらい都市があったなんて思いもよらんかったわ!」
「見てみい! あそこ、普通にポーション売っとるで!」
「ほんまや! って、ミノタウロス肉の串焼き!? ほんもんやろか!?」
できたばかりの鉄道で早速やってきたのか、すでに村で東方の商人たちを見かけた。
多分、オオサクの人たちだろう。
さすが商売の国の商人、フットワークが軽い。
エドウやキョウと違って、オオサクは民間レベルでの貿易が行われる予定だ。
オオサク側の許可を得た商人なら、好きに取引ができるのである。
だけどしばらくすると、エドウからもサムライが個人で村にやってくるようになった。
ただし商売のためではない。
この村には実力のある剣士が多くいるという話が、いつの間にかエドウのサムライたちの間で広がって、腕試しや武者修行をしに来るようになったのである。
「そういえば最近、アカネさんはどうしてるかな? この前マサミネさんが来たときは、まだ合わせる顔がないって言ってたけど……」
魔境の山脈の単身踏破を今度こそ成し遂げるため、故郷に戻らず村で修行中のアカネさん。
サムライとしてのプライドにかけて、きっとハードな訓練を続けているはずだ。
高いモチベーションに加えて、この村の訓練場による後押しもある。
そう遠くないうちに単身踏破も成功できるだろう。
「って、あれ? アカネさんがいない?」
訓練場を覗いてみると、そこにアカネさんの姿はなかった。
いつもここでトレーニングしている村人に聞いてみる。
「アカネさんは休憩中かな?」
「アカネというと、あの東方の? そういえばこのところ、まったく見かけないなぁ。以前はよく来ていたんだが」
「あれ? そうなんですか?」
もしかしてより実戦的な訓練にためにダンジョンに潜ってるのかな?
そう思って、ダンジョンの出入りを管理している冒険者ギルドに行ってみた。
「アカネ? いえ、その方の出入りの記録はありません」
「え? 本当ですか? じゃあ、ダンジョンには来てない……?」
「はい、間違いありません。非冒険者の方でも、必ず入場の際にはチェックをしていますので」
冒険者に登録していなくても、ダンジョンに入ることは可能なのだけれど、必ず入り口のところで入場の記録を取られるのだ。
「うーん、じゃあ、どこで訓練してるんだろう? それとも、もう再挑戦しに行っちゃったとか……? ……まさか、どこかで切腹しちゃってたり?」
あり得ないことじゃない。
すぐ腹を切りたがる彼女のことだ、貸している部屋で一人死んでいる可能性もあった。
「マップ機能で居場所を確かめてみよう」
村人として登録していれば、マップを使ってどこにいるのか調べることができるのだ。
プライベートを覗くみたいで気が引けるけれど、仕方がない。
「ええと……アカネさんを検索して……あ、いた。居住区の方じゃない。これは、飲食街の方……?」
飲食店が多く集まってる一帯に、アカネさんを示す黒い点があった。
「ご飯でも食べてるところなのかな? でもお昼時ならともかく、まだ午前中なんだけど……」
ともかく見に行ってみることに。
「ええと、この辺りのはずだけど……」
そのとき、とあるお店の前に、随分と恰幅の良い女性がいることに気づく。
そこはハンバーガーのお店だ。
元々この国になかった食べ物だけれど、この村で作られるようになってから爆発的に広がり、今では各地でこれを真似た飲食店がたくさんできているほど。
店内で食べることも、テイクアウトすることも可能で、どうやらその女性はハンバーガーをテイクアウトしたらしい。
その数は一個や二個ではない。
全部で五個のハンバーガーを抱えている。
しかもよく見ると、口の辺りにソースらしきものが付いていた。
もしかしてあの五個はおかわり……?
そもそもまだ午前中だよ?
そんなことしてるから太り過ぎちゃうんだ。
体重で言うと軽く百キロは超えてるだろう。
腰に提げてる刀が、もうほとんどお腹の肉に埋もれちゃってるし……って、刀?
「あ、アカネさん!?」
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