第243話 噛み千切られたら痛いのかな

「ぜぇぜぇぜぇ……く、くそっ……どういうことだ……」


 猫族の男たちを率いる群れのボスが、肩で息をしながら地面にへたり込んでいる。


「な、何かの魔法かっ……?」


 さっきから幾度となく襲いかかってきたけれど、僕はその度に瞬間移動で背後に回り込み続けていた。

 結果、体力の限界がきて、こうして息を荒らげているというわけだ。


「そろそろ勝負がついた頃かな? よいしょっと」

「っ!? また……っ!」


 僕は彼の背後に再び瞬間移動して、その背中に軽く触れる。

 そのまま即座に地上へと移動した。


「これは……っ!」


 地上ではすでに戦いが終わっていた。

 猫族の男たち、そして犬族の大半は敗北を悟って逃げ出したようで、残っているのは負傷者や縄で縛り上げられた者たちだけだ。


 その中には、犬族のボスの姿もある。


「ガガ! それにルークも!」


 リリさんがこちらに気づいて駆け寄ってきた。


「てめぇっ、ルークから離れやがれっ!」

「ま、待て! もう戦う気はない!」


 もはや戦意はないようで、降参を示すように慌てて両手を挙げた。







「で、てめぇら一体どうしてくれようか?」


 リリさんが睨みつけたのは、縛り上げられた男たちだ。


 集落から少し離れた場所である。

 そこに彼らのボスも含め、身動きを封じられて座らされていた。


「まとめてアレを噛み千切ってやろうか? あ?」

「「「~~~~~~っ!?」」」


 牙を剥きだして脅すリリさんに、男たちはその痛みを想像したのか、顔を真っ青にする。

 ……僕もゾワッとしてしまった。


「なぁなぁ、やっぱアレって噛み千切られたら痛いのかな?」


 ララさんが素朴な疑問を口にする。

 そりゃ痛いに決まってるでしょ!


「まぁまぁ、そんなことしちゃったら、種族の維持にもかかわるでしょ?」


 僕は思わず助け舟を出す。

 男たちがいなければ、彼女たちだって繁殖することができないのだ。


「ちっ、そうだな。……じゃあ、見せしめとして首謀者連中だけにしておくか」

「「「ひいいいいっ!?」」」


 心当たりのある何人かが悲鳴を上げる。

 そして必死に頭を下げながら懇願した。


「あっしはボスに逆らえなかっただけっす! 最初は止めようとしたんすけど!」

「おい、なに適当なこと言ってやがる! お前も最初から乗り気だっただろうが! い、いや、オレだって本当はこんな真似はしたくなかったんだ! けどよ、一部の過激派連中の声が段々と大きくなって……もはや抑え切れず……」


 一方で、犬族のボスは肝が据わっていた。


「……俺は何も言い訳はせん。群れの連中を説得し、彼らに加勢することを決めたのは俺だ。だから責任はすべて俺にある。煮るなり焼くなりしてくれ。だができれば他の者たちには寛大な措置を頼む」

「い、いや! ボスだけの責任じゃない! それに乗った俺たちにも責任がある!」


 ……なんていうか、猫族と犬族で大違いだった。


「ちっ、情けねぇな、うちの男どもはよ……」


 リリさんも呆れた顔をしている。


「く、くそっ、犬族めっ! 卑怯だぞ!」

「おい、黙れ、ガガ。今すぐ去勢するぞ、コラ?」

「ひっ!」


 このままだと本当に去勢されてしまうかもしれない。

 まぁ自業自得なのだけれど……。


 ともあれ、彼らの処置についてはリリさんに任せるとして。

 僕は口を開いた。


「怪我人も多いし、まずはその治療をした方がいいと思うよ。はい、今からポーションを配るので、みんな飲んでくださーい。って、腕を縛られてるんだった」


 仕方ないので、負傷が酷そうな人から順番に無理やり飲ませていった。

 最初はヤバいものを飲まされると思ったのか、抵抗されたけれど、


「傷があっという間に治っていく!?」

「折れていた骨が元通りになっちまった!」

「こっちにも早くくれ!」


 その効果が分かるや、すぐに受け入れるようになった。


「リリさん、みんなにも手伝ってもらっていいかな?」

「お、おう。分かった」

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