第244話 てめぇは即去勢だ

 その後、とりあえず二人のボスだけは牢屋へと押し込んでおき、今後また改めて裁くことにして、それ以外の人たちは解放してあげることとなった。

 どちらの群れもボスの意向が強く、今後再び攻めてくる可能性は低いだろうとの判断からだ。


 そうして数日後。

 リリさんから、二人のボスへと裁定が言い渡される。


「まずは犬族ついてだが……今後、てめぇがボスをやってる間は、万一うちの群れが何らかの危険に晒されたときなどに、群れを引き連れて援軍に来てもらおう」

「……そんなことで良いのか?」

「ああ、どうせ賠償できるようなものなんてねぇだろうからな」

「だが……そんな約束を護るとは限らないだろう?」

「はっ、ガガみてぇなクズ野郎ならともかく、てめぇはどう考えてもそういう奴じゃねぇ。まぁしかし、それでも何か縛るものが必要だ。というわけで……」


 リリさんから目配せを受けて、僕は前に出た。


「ええと、ブルさん、だったっけ? これから僕があなたの集落に行って、ここみたいに簡単に作物が育つ畑を作ってあげます」

「なに……?」

「それで食糧事情はすぐに改善するかと」

「そ、それは本当か……? だが俺たちは、貴殿を無理やり攫おうと……」


 これまでの尋問で分かったことだけれど、どうやら彼らが猫族の男たちに協力したのは、僕を奪い去って危機的な食糧難を解決するためだったらしい。


「別に攫ったりしなくても、言ってくれればいつでも集落に行ったんだけどね」

「え……?」


 畑なんて一瞬で作れるわけだし。


「で、万一約束を違えたら、その畑は没収ってことならどうだ?」

「……なるほど、それなら是が非でも約束を護るだろう」


 続いて、男猫族のボスの方だ。

 彼らの集落にも僕が派遣されることになったのだけれど、その代わりとしてリリさんがある要求を提示する。


「ガガ、てめぇはボスの座から降りて、別の奴に譲れ」

「なっ……ちょ、ちょっと待てよ!? 何で俺の方だけ!? 犬族と同じでもいいだろう!?」

「よしでは今ここで去勢を……」

「はい分かりましたっ!」


 刃物を取り出し、ガチのトーンで去勢と告げるリリさんに、あっさり屈した。

 さらにリリさんは、新たな男猫族のボスを指定する。


「次のボスはあたしの弟でもあるダダにしろ。あいつは脳筋なてめぇと違って話が分かる奴だ。強さも申し分もねぇし、まだ若いが、ボスとして十分にやっていけるだろう」

「ぐ……あいつか……」

「てめぇはちゃんと新しいボスを支えてやれ。万一、歯向かったりなんてしてみろ。犬族同様、畑は即没収――」

「わ、分かった……」

「――加えて、てめぇは即去勢だ」

「それだけはやめてくださいお願いします!」







「じゃあ、ここに畑を作りますねー」


 僕は犬族の集落へとやってきていた。

 彼らは猫族と違い、男女で纏まって暮らしているようだ。


 早い段階で番いを作り、基本的には生涯を通して添い遂げるらしい。

 繁殖期ごとに相手を変える猫族とは随分と違うね。


「ほ、本当に畑が……」

「ここに種があるんで、みんなで協力して植えてね。三日もあれば収穫できるはずだから」

「たった三日で!?」


 ボスのブルさんが驚愕している。


「後はサービスでお風呂とかトイレとかも作っておくね」


 サービスというか、猫族の集落にも設置したからね。

 この集落もなかなか衛生的に問題があったのだ。


 犬族の集落が終わると、今度は猫族の男たちの集落へ。


「話は聞いています。私が新しくボスとなったダダです」


 出迎えてくれたのは、すらりとした長身の猫族の青年だった。

 リリさんの弟さんだというのに、随分と物腰が柔らかく、知的な印象を受ける。


 血縁関係があっても、あまり交流はないらしい。

 ダダさんも三歳の頃にこちらの群れに移ってきたため、そもそも家族という感じではないそうだ。


 この集落にも畑や公衆浴場などを作っていった。


「……ん?」


 そのために集落内を回っていると、段々と群れの男たちが集まってきて、遠巻きにこちらを見てくるのだ。

 謎の施設を次々と作り出す人族に、単に興味があるだけかと思っていたのだけれど……。


「可愛い子だな……」

「人族の少女か……悪くない……」

「じゅるり……」


 ちょっ、ちょっと待って……?

 もしかして……は、発情されちゃってる!?

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