第413話 とっても素敵な神殿ね
水深150メートルの世界はほとんど地上の光が届かない。
当然ながら辺りは真っ暗だ。
「くくく、暗すぎではござらぬか!?」
先ほどまで元気だったアカネさんが怯え始める。
もちろん明かりが必要だ。
ガイさんが魔法で光を灯した。
光に照らされ、湖底が露わになる。
「神殿だ」
そこにあったのは、湖底に長い年月にわたって沈み続けたとは思えないほど美しく、神々しさすら感じさせる建造物だった。
「ところどころ壊れてはいるけど、そんなに古い建物とは思えないわね」
「うむ、いつできたかは分からぬが、驚くほど風化している様子がないな」
「この感じ、建材一つ一つに特殊な魔法処置が施されてるみたいよぉん」
どうやら壊れた部分の多くは魔物によるもので、年月による風化の影響はほとんどないみたいだ。
当時の文明水準の高さが垣間見える。
湖ができるよりも先にこの神殿が作られた、というわけではなさそうだ。
つまり何の目的かは分からないけれど、最初からあえて湖の底にこの神殿を作ったらしい。
「だーりん、とっても素敵な神殿ね♡」
「も、もう少し……警戒した方が……魔物もいるし……」
「いやん、魔物こわぁい……でも、だーりんが護ってくれるからへーき♡」
こらそこ、こんな場所でいちゃつかない。
神殿の扉は硬く閉じられ、開けることもできなかったけれど、小窓から中に侵入することができた。
「「「ギョギョギョッ!」」」
「魔物だ!」
神殿内を進む僕たちの前に立ち塞がったのは、半魚人の魔物サハギンの群れだった。
どうやらこの中にかなりの数が住みついているらしい。
もっとも、僕たちの敵ではなかった。
二、三十匹が一斉に襲い掛かってきたり、上位種のエルダーサハギンが現れたりもしたけれど、あっさりと殲滅してしまう。
「サハギンなんて水棲のゴブリンみたいなものだし、私たちの相手にもならないわね」
もちろんサハギンだけではなかった。
毒を持つポイズンクラゲ、硬い殻と鋭い鋏を持つ蟹の魔物シザークラブ、巨大な亀の魔物アーケロンなどと遭遇した。
とはいえ、やはり僕たちが苦戦するほどでもなく(今回こそ宣言通りアカネさんも活躍してくれた)。
かなり広大で複雑な構造の神殿だったものの、三十分ほどで最奥にある巨大な礼拝堂らしき場所に辿り着いていた。
美麗な女神像を祀った、荘厳な礼拝堂だ。
思わず敬虔な気持ちになって、祈りを捧げたくなる厳粛な空気が満ちている。
そんな中、セレンが何かに気づいたらしく、
「ねぇ、ルーク、あの祭壇の上……人形かしら?」
「え? ……本当だ、何かある」
人形、というには精巧すぎるかもしれない。
この湖の色とよく似たエメラルドグリーンの髪に、白く透き通った肌。
胸の前で腕を組み、静かに眠っているけれど、今にも目を覚ましそうにも見える。
と、そのときだった。
「オアアアアアアアアアアッ!!」
突如として響き渡った魔物の咆哮。
天井から猛スピードで降りてきて、祭壇の前に現れたのは、身の丈三メートルを超える巨大なサハギンだった。
「みんな、気を付けるのよぉん! こいつはさっきまでのサハギンとは別格だわぁ!」
「まさか、サハギンロード!?」
三又の槍を手にし、まるで祭壇の上の人形を護るかのように立ち塞がるその姿は、さながら海神ネプチューンだ。
「ここは拙者に任せるでござるっ!!」
「ちょっ、アカネさん!?」
名誉挽回とばかりに、一人で突っ込んでいってしまうアカネさん。
「あああああああああああああああっ!?」
だけどサハギンロードが起こした渦に巻き込まれ、回転しながら天井のところまで吹き飛ばされてしまった。
「ぐぇ……」
そして目を回してゆっくりと落ちてきた。
いつになったら汚名を返上できるのか……むしろ汚名ばかり積み上がっている気がする。
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