第235話 男なわけないって

 周囲を土塁で覆ったその集落には、遊牧民が暮らすようなテントが幾つも並んでいた。


「えっ、ララ!?」

「ララが帰って来たって!?」

「人族に捕まったんじゃなかったのかい!?」


 ララさんの姿を見るなり、集落の獣人たちが大いに驚いた。

 それだけ一度人族に捕まったら、逃げ帰ってくることは難しいのだろう。


「それに誰だい、あの少女は?」

「み、耳が頭に付いていない!」

「人族じゃないか!」


 そして僕に気づいて慌て出す。

 とはいえ、子供、しかも今は訳あって女の子の格好をしていることもあって、遠巻きに様子を見てくる程度だ。


 ……子供と言っても、もうすぐ十四歳になるんだけどね?

 身体が全然大きくならないからなぁ……。


 ララさんもそうだけれど、この集落に住んでいるのはみんな猫系の獣人たちらしい。

 目がくりっと大きくて、確かに猫っぽい気がする。


 それにしても、ざっと見渡す限り女性しかいないような……?


「あそこがボスの家だ」


 ララさんに連れられ、これもテント状の家屋へと向かう。


「ララ!? 帰ってきたのか!? てっきり人族に捕まったと思っていたのに……」

「捕まったけど、運よく脱出できたんだ!」


 そこにいたのはララさんとよく似た女性だった。


 年齢は二十代半ばくらいだろうか。

 ララさんよりも背が高くて、凄く気が強そうな印象を受ける。

 そして腹筋がバキバキだった。


 この女性がボス?

 でも他に誰もいないし……。


 二人は感動の再会をするかと思いきや、


「このバカっ!」

「ぎゃっ!?」


 ララさんがいきなりその女性に蹴り飛ばされた。


「あれだけ罠には気を付けろって言ったのに、まんまと引っかかっちまいやがって!」

「……ひぃっ、ご、ごめんよ、リリ姉さん……っ!」

「ごめんで済むわけねぇだろ! しかもボスの妹がヘマしたとあっちゃ、他の連中に示しも付かねぇだろうが!」


 烈火のごとく怒っている。

 ……めちゃくちゃ怖いボスのようだ。


 僕はこっそりこの場から立ち去ろうかと思った。


「で、てめぇは何者だ? 見たところ獣人じゃなさそうだな?」


 気づかれた!


「何の用かは知らねぇが、人族がこの集落にノコノコ入ってきて、ただで済むと思うなよ?」

「か、彼女は、牢屋に入れられちまったあたしを助けてくれた恩人なんだ!」

「はっ、そうやってこの場所を突き止めようっていう魂胆かもしれねぇだろうが!」

「ひぃっ!」


 随分と警戒されているみたいだ。

 群れの命を預かるボスとして当然のことではあるだろう。


「し、心配しなくても大丈夫だよ、ボスさん」

「……ふん、一応、悪意を持った奴の匂いはしねぇがな」


 彼女はリリというらしい。

 似ていると思ったら、ララさんの姉なのだとか。


「僕はルークだよ」

「はっ、男みたいな名だな?」

「うん、だって――」

「ま、命拾いしたじゃねぇか。もしてめぇが男だったなら、たとえ子供だろうが、勝手に集落に入ってきやがった時点で、問答無用で死刑が決まってたところだ」

「――え?」


 なんか今、物凄く物騒なこと口にしなかった?


「お、男は殺されちゃうの?」

「あたしら猫族は、男だけ、女だけで群れを作って生活してんだ。集落に男を招き入れていいのは特別な時期だけで、それ以外の時にあたしの許可もなく入ってきやがったりしたら捕まえて即処刑だ」


 だからこの集落には女性しかいなかったらしい。


「そんなに脅したら可哀想だろ、リリ姉さん?」


 ララさんが割り込んでくるけど、僕は内心で冷や汗を掻いていた。


 ぜ、絶対に男だってバレちゃいけない……。

 ここは女の子ということで押し通さないと!


「ふん、てめぇは警戒心が足りねぇんだよ。だから罠にだって引っかかっちまうんだ。男が女装してる可能性だって考慮するくらいじゃねぇとな」

「いやいや、どう考えてもこんな可愛い子が男なわけないって」


 ……すいません、男です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る