第130話 坂もすいすいじゃ

「ははは……これがルーク様のギフト力……うん、もう、笑うしかないですねぇ……。あんな荒野にたった一年かそこらで街を築いてしまうわけですよ……」


 リーゼンの街があっという間に生まれ変わってしまった。


 今までの街並みはそのままに、古くなっていた建物がすべて新築同然へ。

 幾つもあったガタガタの道は、荷車も楽に引けるくらい綺麗に舗装されている。


「婆さんや、いつもより速く歩けるぞ!」

「爺さん、そんなはずが……あれ、ほんとですね」

「坂もすいすいじゃ~っ!」

「爺さん、あんまりはしゃぐと転びますよー」


 腰の曲がった老人が若者並みの速度で歩いているところを見るに、単に歩きやすいだけの道ではなく、荒野とリーゼンを結んだ街道と同じような機能があるらしい。


 さらには街の各所に公衆便所や公衆浴場が設けられた。

 空き家を一瞬でそれらに変えてしまったのである。


 今後は路上で排泄するような人間もいなくなるだろう。

 街や人が清潔になれば、それだけ疫病などの蔓延も防ぐことができるようになるはずだ。


 加えて、古くなっていた城壁や井戸まで新しくしてくれた。

 特に井戸には謎の道具を付けてくれ、子供でも簡単に水を汲み上げることができるようになっていた。

 蓋がされたままなので落ちてしまう心配もない。


「まさかここまでしていただけるとは……ぶっちゃけダメ元だったんですけどねぇ……。しかも、あれからまだ一日なんですけど……」


 荒野の街で交渉してから、たったの一日しか経っていない。

 翌日の昼頃にはすでに街中の作業が完了していた。


 それだけでも驚きだというのに、


「次は周辺の畑ですね」


 今度は畑を作り替えてくれるらしい。

 ミシェルは思わず呟く。


「この力をもしアルベイル侯爵が知っていたら……間違いなく手放そうなんて思わなかったでしょうねぇ……」



    ◇ ◇ ◇



 リーゼンの街の作り替えが終わると、今度はその周辺に広がる畑の性能を施設グレードアップで強化していった。


「作物の生育速度、作物の品質、作業効率をそれぞれアップして……それから虫除け機能も付けて、と……」


 何度も強化している村の畑ほどではないだろうけど、これでかなり収穫量が増えるはずだ。

 作業もずっと楽になると思う。


「婆さんや、いつもより速く動けるぞ!」

「爺さん、そんなはずが……あれ、ほんとですね」

「畑作業がすいすいじゃ~っ!」

「爺さん、あんまりはしゃぐと転びますよー」


 うんうん、あそこのおじいちゃんたちも喜んでくれているみたいだ。

 畑仕事って大変だからね。


「ミシェルさん、だいだい終わりました」

「あ、ありがとうございます! お陰様で遥かに住みやすい街になったかと! ここまでしていただいて、なんとお礼を申し上げればいいか……」

「いえいえ、まだここからですよ」

「へ?」

「……あれ?」


 僕たちはそろって首を傾げた。


「北郡全部をって話ですよね?」

「ほ、北郡全部を!? い、いえ、確かに、北郡をルーク様の街の一部にとは言いましたけれど……てっきり最大都市であるリーゼンだけかと……。もしかして、本当に北郡すべてを……?」

「はい。そのつもりでした」


 リーゼンはあくまで最初の一歩で、これを皮切りに、すべての主要な街にも同じことをしていこうと思っていたんだけれど。


「本当ですか!? も、もちろんそうしていただけるとありがたいですが、主要な街すべてとなると一体どれだけかかることか……あ、でも、たった一日半でリーゼン一帯が終わったのか……。お、お願いしてもよろしいですか?」

「大丈夫ですよ」


 それから他の主要な街にも道路を引いて、そこでもリーゼンと同様に街を作り替えていった。

 もちろんその都度、住民たちを村人にしていく。


 その結果、あっという間に村人が三万人を突破してしまったのだった。


〈パンパカパーン! おめでとうございます! 村人の数が30000人を超えましたので、村レベルが9になりました〉

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