第69話 地下で飲むようにしてくださいね

「がっはっはっは! こいつはうめぇ酒だ!」

「こんなうめぇもん、ただ飲むだけじゃ勿体ねぇべ! おい、お前、何か余興をやれ!」

「へい! おらの得意な腹芸、見晒せぇ~っ!」


 さっきまであんなにオドオドしていたはずのドワーフたちの様子が、お酒が入った直後から一変した。


 あちこちから大きな笑い声が響き、謎の一発芸が披露されていく。

 中には半裸になって踊る者まで現れる始末だ。


 終いには、女ドワーフまで……。

 ちょっと! こんなとこで胸を出さないで!


 はい! 子供たちは解散!

 見ちゃダメだよ!


「え? 何? お酒を飲むと性格が変わっちゃうの?」

「どうやらそのようだな……。というか、あれこそが私の知る本来のドワーフ族だ」


 フィリアさんが呆れ顔で嘆息する。


「うっほほっ!」

「うほっほ!」

「うほうほうほ!」


 さらにお酒が入ってくると、誰からともなくゴリラのような鳴き声を発し始めた。

 お酒を片手にぐるぐると回り始め、とんでもない盛り上がりようだ。


「うほ! うほほ!」


 そんな中、ドワーフの一人が僕の方を指さし、何かを主張する。

 生憎とゴリラ語(?)なので何言ってるかまったく分からなかったけれど、どうやらドワーフたちには通じたらしく、


「「「うほおおおおおおおおおおおおっ!」」」


 ゴリラ状態のまま一斉にこちらに駆け寄ってくる。


「ちょっ!? えっ!?」

「「「うほほっほっほ~っ!(ルーク村長、ばんざーい!)」」」


 気が付けば僕は、怪力の彼らによって簡単に持ち上げられていた。

 そうして彼らの頭上で、幾度となく空中へ放り上げられる。


「うわああああっ!?」


 しばらく宙を舞った後、彼らにキャッチされると、再び空に向かって放り投げられた。


「ど、胴上げ!? 何で!?」

「「「うほほっほっほ~っ!(ルーク村長、ばんざーい!)」」」

「何を言ってるの!?」

「「「うほほっほっほ~っ!(ルーク村長、ばんざーい!)」」」

「だから何言ってるか分からないってば!」





 その後、僕は胴上げ地獄からどうにか抜け出すことができたけれど、ドワーフたちは夜が更けても騒ぎ続けた。

 ようやく静かになったのは、全員が酔い潰れて寝てしまったときだ。


 そして翌朝、死屍累々と広場に転がるドワーフたちが、朝日を浴びて目を覚まし始める。


「……んん? おいらは、一体……?」

「っ! 何でおら、裸になってるべ!?」


 自分たちがほぼ全裸で、しかも太陽の下で寝ていたことに気づいて、狼狽え出した。


「は、恥ずかしいべ……っ!」

「太陽が眩し過ぎるっ!」


 あちこちに散乱していた服を慌てて身に付けると、地下へと逃げるように駆け込んでいく。


「……今後、ドワーフたちがお酒を飲んでいいのは、地下だけにしよう」


 僕はそう決めたのだった。





「は、はい、村長がそう言うのなら……その、もしかしておいらたち、何か機嫌を損ねるようなことを……?」


 ドランさんにそのことをやや強めの口調で伝えると、恐る恐る訊いてきた。


「え? もしかして昨日のこと、覚えてないんですか?」

「も、申し訳ないことに、酔っていてまるで……」


 どうやら昨晩の奇行をまったく覚えていないらしい。

 だから朝起きたとき、あんなに驚いていたんだ。


「ええっ? おいらたちがそんな恥ずかしい真似を……っ? 何かの間違いでは……?」

「残念ながら本当です」

「そんな……そ、そう言えば、確かに今までも夜に酒盛りをしたとき、朝起きたらなぜか知らない場所で寝ていたり、裸になっていたり……」

「完全にそれです」


 それにしてもこうして身を縮めているところを見ると、昨晩、自ら率先して裸になり、なぜかお腹に顔を書いて踊りまくっていたドワーフと同一人物とは思えない。


「とにかく、これからは地下で飲むようにしてくださいね」





〈ドランを代表するドワーフ124人が村人になりました〉


 そんなこんなで、村に新しくドワーフたちが加わったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る