第91話 その方が長く潜ってもらえるからね

 その日、村に四人組の冒険者がやってきた。


 冒険者が来るのは初めてのことだ。

 恐らくこの村の噂を聞き付け、ここを拠点にして魔境の探索を行うつもりだろう。


 ただ個人的には、ぜひ魔境よりも彼らに挑戦してもらいたいところがあった。


「ねぇ、アリー、あれからダンジョンの構築は上手くいった?」

「お陰様でばっちりなんですケド!」


 ダンジョンマスターの妖精アリーが、胸を張って断言する。


 ちなみに僕の家からは、直通の地下通路でダンジョン最下層の彼女のところまで行けるようにしてある。


「五階層まで増やして、難易度も段々上がっていくように調整したんですケド! ボスモンスターも強力なのを配置できたんですケド!」


 元々はたったの二階層しかなかったからね。

 それに一階層からやたらと罠や魔物が多かったりしたのも、ちゃんと修正してくれたようだ。


「うん、その方が長く潜ってもらえるからね」


 ダンジョンというのは、ダンジョン内に人がいるほど、ポイントが入ってくる仕組みになっているらしい。

 そのため最初の階層から難易度が高いと、すぐに撤退されてしまい、ポイントが入りにくくなってしまうのだ。


「それじゃあ、そろそろダンジョンに人を呼び込んじゃってもいいかな? ちょうど村に冒険者も来たみたいだし」

「大丈夫なんですケド!」

「うん、じゃあ彼らがよかったら、ぜひ挑戦してもらうね」


 そうしてアリーの了承を得た僕は、すぐに冒険者たちのところへ。

 そろそろ広い畑を縦断して、村の門まで辿り着いている頃だろう。


 あの人たちかな?


 兵士と違って冒険者は身軽な装備の場合が多く、一見すると旅人風だ。

 でも、サテンを通じて聞いた特徴と一致しているので、間違いないだろう。

 男性三人女性一人の四人組は彼らしかいないし。


「村だというし、念のために行っておいた方がいいだろう。しかし噂じゃ、この村を築いたのはあのアルベイル卿のご子息らしいぜ」

「『剣聖技』のギフト持ちで、戦闘卿とか戦争卿なんて呼ばれている、あの……?」

「魔物狩りを好むタイプだとすれば、さぞかし野性味溢れる見た目をしていることだろうな」


 ……そんな話がちらりと聞こえてくる。

 うん、聞こえなかったことにしよう。


「ようこそ、冒険者の皆さん。僕が村長のルーク=アルベイルです」



     ◇ ◇ ◇



「ようこそ、冒険者の皆さん。僕が村長のルーク=アルベイルです」


 可愛らしい少年にそう声をかけられ、俺たちはしばし固まってしまう。


 え?

 この少年が村長?

 アルベイル卿の息子?


 予想していたのとまるで違う。

 こんな子供だというのも驚きだが、あの戦闘卿の子供とは思えない柔らかな印象だ。


 俺たちの来訪を知って、向こうからわざわざ出向いてくれた……なんてことはあり得ないだろうから、たまたま近くにいたのだろう。


 それにしても、なぜ俺たちが冒険者だと分かったのか?

 一応、最初の門を通るときに身分などを確認され、そこで冒険者だと告げてはいるが、それを報告する時間などなかったはずだが……。


 不思議に思いつつも、俺たちは慌ててその場に跪こうとする。

 貴族の前ではこうしなければならないというのは、俺のような粗野な冒険者でも常識だ。


 たとえ相手が子供でも関係ない。

 下手をすれば、厳しい処罰を受ける可能性もあった。


 だが少年は手でそれを制して、


「あ、そんな堅苦しい挨拶は要らないですよ。それより、やっぱり魔境が目当てでこの村に?」


 どうやら余計な気遣いは要らないようだ。

 マナーなどに疎い俺には嬉しい話だ。

 それに話が早くて助かる。


 しかし見た目だけでなく、この少年からは貴族らしい高慢さがまったく感じられない。

 俺は第一印象の段階で、すでにこの少年に好感を抱いた。


「ああ。しばらくこの村を拠点にして、魔境の探索ができればと……」

「そうなんですね。それなら最近この村にも宿ができたので、そちらをぜひ利用してみてください」


 この規模の街――村で、最近まで宿がなかったのが逆に不思議だな。

 商人たちはどこに寝泊まりしていたのだろうか?


「それと、実は一つ提案がありまして」

「……提案?」


 そして少年は驚くべきことを口にしたのだった。


「ダンジョンを探索してみませんか?」


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