第204話 無駄なことを

「ふむ。危険な黒魔法であるな」


 ガイさんはそう頷きながら、棍の先端でラウルの影を突いた。

 するとラウルが動けるようになる。


「今のは何だったんだ?」

「一時的に身体の動きを封じる魔法であろう。これも黒魔法の一種であるが、我が浄化魔法が有効である」


 どうやらガイさんは浄化魔法によって、ラウルを縛っていた魔法を解いてくれたらしい。


「ちっ、面倒な相手だな」

「だからフィリアさんが気を付けてって言ったのに!」


 僕が思わずツッコんでいると、ワイトがまたしても何やら怪しげな魔法を使った。


「余を護り、不敬なる者どもを排除せよ。ダークサモン」


 そして禍々しい靄が噴出したかと思うと、それが馬に跨った騎士の姿を象っていく。

 ただしその騎士は首から上がない。


「デュラハン……っ!? 上級アンデッドを召喚したのか!」


 アレクさんが叫ぶ。


 しかも一体だけじゃなかった。

 続いて二体目三体目が、王を守護する騎士のように次々と姿を現す。


 合計なんと十体ものデュラハンだ。

 ワイトは杖でこちらを指しながら、デュラハンたちに命じた。


「奴らを殲滅せよ」


 首無しの騎士たちは無言でそれに応じた。

 数体をワイトの守護に残して、一斉に躍りかかってきたのである。


 これにはさすがに苦戦させられた。

 デュラハンの凄まじい突進は、ノエルくん以外、まともに受けてはただでは済まない威力だ。


 しかも馬上から繰り出される槍捌きは絶妙で、並の戦士ではあっさり串刺しにされてしまうだろう。

 加えてアンデッドなので、攻撃がほとんど効かない。


 小回りこそ利かないものの、走攻守が揃った難敵だった。


「馬の足を狙え! 身動きを奪っちまえば、後はそいつの浄化魔法でトドメだ!」


 叫んだのはラウルだ。

 お手本を見せるようにデュラハンの足元に滑り込むと、馬の足を斬り飛ばしてしまった。


 すかさずガイさんが光を帯びた棍でデュラハンを突けば、苦しそうに悶え始め、やがて事切れたように動かなくなる。

 そのまま靄となって消えていってしまった。


「はっ、この調子でどんどん殺ってくぞ!」

「無駄なことを」


 呼び出したデュラハンが数を減らしても、ワイトは余裕な態度を崩さなかった。


「ダークサモン」

「なっ! 新手が……っ!?」


 再び新たなデュラハンを呼び出してしまったのだ。


「くっ! キリがないじゃない!」

「姉上っ、まずワイトを片づけなければ……っ!」

「だけど近づくのも簡単じゃないわ!」


 ワイトに近づこうとすると、守護しているデュラハンに邪魔をされるだけでなく、ワイトがいやらしいタイミングで黒魔法を放ってくるのだ。


 特に先ほどラウルが受けた身動きを奪う黒魔法を喰らったら、デュラハンの攻撃をまともに浴びてしまいかねない。


「ゴーレム!」


 僕は石垣からゴーレムを作り出した。

 そのまま真っ直ぐワイトのところへ突撃させる。


「シャドウバインド」


 ワイトがまたしても黒魔法を使ってきたけど、ゴーレムの動きが止まることはなかった。


「なに?」


 ここで初めてワイトが驚きを見せる。


「思った通り、ただの物質には効かないみたいだね」


 迫りくるゴーレムに、ワイトを守護するデュラハンたちが動いた。

 ゴーレムの巨体で突進を受け止めつつ、殴り飛ばしてやる。


 生憎とアンデッドに打撃はあまり効かないので、すぐに起き上がってくるだろうけど。その前にワイトを倒せば終わりだ。

 そしてワイトの頭上へ、拳を振り下ろそうとしたときだった。


「シャドウムーヴ」

「え? 消えた?」


 ワイトが突如として姿を消したのだ。


「こちらだ」


 再び現れたのは、数メートル先。


「えええ、そんな魔法まで使えるの?」


 これでは接近して攻撃することができない。


「……まぁ、こっちも似たようなことできるんだけどね。ガイさん、攻撃頼みますね」

「む?」


 僕はガイさんを掴んで、そのまま瞬間移動でワイトの背後へと飛んだ。

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