第81話 勝手に階段作られたんですケド

「知っての通り、あらゆるダンジョンには、それを管理しているマスターが存在している。この宝箱を攻略報酬として置いたのも、そのダンジョンマスターの仕業だ」


 エルフとして何年も生きている物知りなフィリアさんが教えてくれる。


「だがダンジョンの攻略者には、その報酬を受け取らないという選択肢もある。その場合、ダンジョンマスターには、自らのいる場所へと攻略者を案内しなければならないという制約があるのだ」


 どうやらダンジョンマスターには、ダンジョンを管理する上で色々な制約ルールが存在するらしい。

 確かに好き勝手にダンジョンを作れるのであれば、誰も攻略できないような理不尽なものにだってできてしまう。


「さすがに私も詳しくは知らないが、ダンジョンというのは元々神々が作ったゲームらしい。だからゲームバランスを保つためのルールが定められているのだ」

「じゃあ、ダンジョンマスターはどこかで僕たちを見ているってことですか?」

「そのはずだ。しばらく待っていれば、きっとダンジョンマスターのところへ行く道が出現するだろう」


 しかしそう言われて待ってみても、まったくそれらしきものは現れなかった。

 と、再びカムルさんが何かに気づいたらしく、


「こ、これを……」

「? 何だろう? 階段? でも通れない大きさ……」


 床に穴が見つかり、そこに階段らしきものが設置されていたのだ。

 ただ、僕の靴がギリギリ入るかどうかといったサイズなので、当然ながら通ることができない。


「これは……どうやらここのダンジョンマスターは、是が非でも我々と会いたくないようだな……」

「え? もしかしてこれがダンジョンマスターのところに行く道ですか?」

「恐らくな」

「こんなのズルくないですか?」

「……もしかしたら、ダンジョンマスター自身はこれを通れるのかもしれない。だとすれば、ルールギリギリといったところか」


 セレンが穴を覗き込みながら言った。


「中に向かって魔法を放ってやろうかしら?」

「ちょ、ちょっと待った!」


 本当にやりかねなかったので慌てて止める。


「そんなことしなくても大丈夫だよ。ほら」


 僕は地下道を作成する。

 すると先ほどの小さな階段とは違い、僕たちがちゃんと通ることができる階段が出現した。


「それじゃ、ダンジョンマスターに会いに行ってみよう」




   ◇ ◇ ◇




 ルーク一行が絶対に降りることができない階段の前で戸惑っている頃、その少女は哄笑を上げていた。


「あっはっはっは! めちゃくちゃ上手くいったんですケド! これであいつらはここまで来れないハズ! アタシってば、もしかして超天才!?」


 ダンジョンマスターである彼女にとって、今回のことは青天の霹靂だった。


 地理的な問題があり、これまでまったくと言っていいほど人が来なかった過疎ダンジョン。

 そのためなかなかダンジョンポイントが貯まらず、ダンジョンの構築ができていなかった。


 そこへ突如として現れた謎の一団。

 トラップも魔物も複雑な迷路構造も、驚くほどあっさりと打ち破り、あっという間にボス部屋まで到達してしまったのだ。


 しかも少ないダンジョンポイントを他に費やしたせいで、ロクなボスを用意することができなかったばかりか、攻略報酬も難易度に見合わないものとなってしまった。


 このままでは報酬の受け取りを拒否し、自分のところまで来てしまうかもしれない。

 そこで彼女が思い付いたのが、ルールの隙間を突いた、反則ギリギリの手段だった。


「ちゃんと通れる階段じゃないとダメってルールに反してるって? え~? アタシはちゃ~んと通れるんですケド!」


 ……自らのサイズを逆手に取ったあくどいやり口である。


 だが、これでどうにか危機を凌いぐことができた。

 と、思ったそのときである。


 彼女のいる最下層の壁に突然、穴が開いた。


「……へ?」


 その穴はどうやら上り階段となっているようで――


「なんか勝手に階段作られたんですケドおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」

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