第285話 一人でぼーっと海を見てるよな
冷蔵倉庫によって、巨大サメが凍り付いた。
といっても、まだ表面部分だけかもしれないので、内側も完璧に凍るまでこのままの温度で冷凍を続けるとしよう。
「このサメは食べられるのかしら?」
「これだけの大きさだ。可食部も相当あるだろう」
「村のダンジョンで獲れる魚の魔物の中には美味いやつもいるしな。こいつもそうなら嬉しいんだが」
みんな魔物を捕まえたら、すぐに食べれるかどうか気にするよね……。
「ともあれ、これでクラーケンも元の海域に戻るんじゃないかな」
そうして僕たちは海岸へと引き返すことに。
途中、クラーケンを海に捨てようとしたら、おじさんに止められてしまった。
「それを捨てるなんて勿体ない!」
「でも、美味しくないんでしょ?」
「確かにクラーケンはこのままでは食えたものじゃないが、燻製にすればちゃんと食料になる。もし捨てるというなら、ぜひ譲ってほしい」
まともに漁業ができず、この辺りでは食糧不足が続いているという。
近いうちに漁が再開されるとしても、この量のクラーケンが今すぐ手に入るのは、非常にありがたいそうだ。
そういうことならと、クラーケンを譲ることに。
ちなみに巨大サメの方が食えるかどうかは、おじさんにも食べてみなければ分からないとのことだったので、うちの村に持ち帰ることにした。
そもそも皮が分厚過ぎて、普通の人には調理できないだろうし。
「あれが港だね」
公園を少し東に飛ばしていると、港町が見えてきた。
何艘もの船が係留されているけれど、漁を行えないせいか、心なしか街に活気がない。
公園を着陸させるようなスペースはなかったので、海の上に着水させた。
そこから橋を伸ばして、港へと繋げる。
「な、何だ……っ? 空から陸が降ってきたぞっ!?」
「港の出入り口が完全に塞がれてしまった……もう俺たちは二度と漁に出れないのか……?」
「ひっ……だ、誰かこっちに来るぞ……っ! に、逃げろっ!」
……港にいた人たちはパニック状態だ。
「凄く怖がられてる……」
「もう見慣れて何とも思わなくなってたけど、確かにあれが普通の反応よね」
おじさんが慌てて声を張り上げた。
「おおい! みんな、俺だっ! 心配するな! 彼らは危険な存在じゃねぇ!」
「「「バザル!?」」」
どうやらおじさんの名前はバザルというらしい。
おじさんは目を輝かせながら港の人たちに訴える。
「むしろ喜べ! 彼らのお陰で、もうすぐまた漁ができるようになるぞ!」
「どういうことだ……?」
「バザルのやつ、漁ができないストレスでとうとうおかしくなったんじゃ……」
「最近あいつ、ずっと一人でぼーっと海を見てるよな」
どうしよう、思ったよりこのおじさん、みんなに全然信頼されてない……。
「しょ、証拠はあるっ! クラーケンが海岸近くに現れる原因となった魔物が、あの建物の中にあるからな!」
「ほんとかよ」
「俄かには信じられんが、そこまで言うなら見せてもらおうじゃないか」
彼らが橋を渡って、海に浮かぶ公園へとやってくる。
「この冷蔵倉庫で凍らせてあるんだ」
倉庫の扉を開けると、猛烈な冷気が押し寄せてきて、周囲の気温が一瞬でぐっと下がる。
「寒っ!? 何だ、ここは!?」
「地下の貯蔵庫どころの寒さじゃねぇぞ!?」
その寒さに驚いている彼らに、倉庫の中に横たわる巨大な魔物を見せてあげた。
「「「何じゃありゃあああああああああああ~~~~~~~~っ!?」」」
おじさんがドヤ顔で言う。
「どうだ! 俺の言った通りだっただろう! あの化け物が棲息地を荒らしたせいで、クラーケンがこの辺りの海に頻繁に出没するようになっていたんだよ! だがこいつを倒した今、近いうちに漁が再開できるはずだ!」
倒したのは僕たちだけどね?
「あ、あんな化け物を、一体どうやって……?」
「本物、だよな……?」
信じられないとばかりに呻く彼らに、さらにおじさんは畳みかける。
「さらにこっちも見るがいい!」
「こ、これは、まさか、すべてクラーケンなか!?」
もう一つの冷蔵倉庫に保管している大量のクラーケンを見て、港町の人たちが再び仰天する。
おじさんは意気揚々と主張した。
「彼らが捕まえたこの大量のクラーケンだが、なんとこの俺の交渉のお陰で、すべて譲ってくれることになったのだ!」
「マジか!?」
「バザル! お前さんを疑った俺たちが間違っていた!」
「最高だぜ!」
「「「バ~ザ~ルっ! バ~ザ~ルっ! バ~ザ~ルっ! バ~ザ~ルっ! バ~ザ~ルっ!」」」
自然とバザルコールが巻き起こり、おじさんは鼻を高くして笑うのだった。
「分かればいいんだよ、分かれば! はっはっはっ!」
「……大したことしてないくせに、随分と調子乗ってるわね?」
「ははは……」
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