第286話 包丁が通らないぞ
街の人たちからは「ぜひお礼をしたい」と言われたけれど、固辞させてもらった。
そもそも僕たちはこの国の人間じゃない。
バザルのおじさんに訊かれたときは適当に誤魔化すことができたけれど、みんなからもっと詳しく問い詰められたら確実にボロが出るだろう。
その前にさっさと立ち去ろうというわけだ。
「もう夕方になっちゃったね。寒くなって来たし、今日のところはこのまま村に帰ろう」
「仕方ないわね……」
クラーケンを
「また公園で空を飛ぶの?」
「ううん。瞬間移動を使うよ」
公園での移動は時間がかかってしまうからね。
「どこかに隠しておいてよ」
「はーい」
施設を瞬間移動させることはできないので、影武者に任せることに。
「あ、でも、サメはどうしよう……?」
瞬間移動は、身に着けている物や、生き物しか一緒に連れて行くことができないのである。
冷凍した巨大サメはもう死んでいるだろうし、さすがに身に着けることも不可能だ。
と思いきや、物は試しと、凍り付いたその身体に触れて瞬間移動してみると、見慣れた荒野の村に一緒に飛んでいた。
「え? もしかしてまだ生きてるの? こんな状態で……?」
仮死状態になっているのかもしれない。
とんでもない生命力だ。
「な、何だ、この化け物は!?」
「魚!? だがこのデカさは……っ!?」
「一体どこから現れたんだ!?」
突如として出現した巨大サメを目撃した村人たちがびっくりしている。
「大丈夫だよ。僕が連れてきたんだ」
「「「なるほど、村長の仕業か」」」
……相変わらずこの村の人たちは状況を受け入れるのが早い。
「それより早速食べてみましょうよ!」
「どんな味がするんだろう」
「「「ワクワク」」」
「う、うん、そうだね」
村の料理人たちを呼び集めることに。
『料理』のギフトを持つコークさんも来てくれた。
そのコークさんが、規格外のサイズをしたサメを見て叫ぶ。
「な、何だ、こりゃああああっ!?」
「サメだよ。ちょっと大きいけど」
「サメ? サメなんて調理したことないぞ……だが、こいつはなかなか良い食材かもしれないな」
「ほんと?」
コークさんの目利きは確かだ。
『料理』のギフトのお陰か、食材の鮮度などを見極めるのはもちろん、今まで扱ったことのない食材の価値を判断することもできるらしい。
「コークさんがそう言うなら間違いねぇな!」
「腕が鳴るわね」
早速とばかりに、意気揚々と捌こうとする料理人たち。
ワイバーンも上手く料理してくれたのだから、きっと彼らならこの未知の食材も期待できるだろう。
と思いきや、
「ちょっと待て! 皮が硬すぎて、全然包丁が通らないぞ!?」
一部分を解凍し、包丁を入れようとしたところでそんな声が上がる。
「ワイバーンの鱗すら切り裂く、ドワーフ特性の包丁でも切れないなんて……」
もはや剣に近いサイズのそれをよく見てみると、刃にノコギリのようなギザギザが付いていた。
これなら硬い皮も、削り取るようにして切ることができるのだろうけれど、生憎と表面に軽い傷がつく程度だ。
力自慢の屈強な料理人が試みても、結果は同じだった。
コークさんが神妙な顔で唸る。
「うーむ、こいつはもっと強い力が必要だな」
「それなら俺に任せてくれ」
申し出たのは、『巨人の腕力』というギフトを持つゴアテさんだった。
ギフトのお陰で元から凄いパワーのゴアテさんだけれど、最近は訓練場で鍛えて、さらにその腕力に磨きをかけている。
きっと力だけなら、ゴリちゃんに勝るとも劣らないだろう。
そのゴアテさんが大きなノコギリ包丁を受け取り、巨大サメの皮をガリガリと削り始めた。
「おおっ! 切れているぞ!」
「さすがだ!」
「しかし皮を割くだけでこの労力……本当にこんな化け物を調理できるのか……?」
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