第187話 ただの村長で十分だって

 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――


 王都を離れた村が、豪快に大地を進んでいく。


 目指すは北東。

 もちろん、いつもの荒野に戻るためだ。


 父上率いるアルベイル軍との戦いに勝利し、無事に王宮を守り切った僕たちは、村ごと帰還しているところだった。

 いつまでも王都の傍に村を置いてるわけにはいかないしね。


「ねぇ、ルーク。本当によかったの?」

「え?」

「王様から直々に王宮に仕えないかって懇願されたんでしょ? しかも爵位付きで」

「いやいや、僕にそんなの向いてないよ。荒野で静かに暮らす、ただの村長で十分だって」


 セレンの指摘を、僕は一蹴する。


「ただの村長ねぇ……ただの村長はこんなふうに村を移動させたりできないと思うけど」


 僕が丁重にお断りすると、王様や王女様から物凄く残念そうにされたっけ。


 今回の一件を通じ、王様はこの国の在り方を根本から変えていく必要があると痛感したようで、これから改革を断行していくつもりだという。

 宮廷貴族たちも色々と懲りたのか、王様の方針に概ね賛同しているようで、今後はこの国の中央集権化が進みそうだ。


 余談だけれど、村人の中には、「このまま王宮を奪い、ルーク様が王になるべきです!」なんてヤバい主張する人たちもいた。

 僕を持ち上げてくれるのはいいけれど、最近、ますます過激な村人が増えてきたような……どうしてだろう?


「まぁでも、王様をサポートしてくれるよう、代わりに影武者を置いておいたけどね」

「さすがです、ルーク様」

「……?」

「(つまり裏から徐々に乗っ取っていき、気づいたときにはこの国の影の支配者になっているわけですね……ふふふ、やはりルーク様の深謀遠慮は素晴らしい……)」


 なんかミリアが良からぬことを考えている気がする。


 なお、国家転覆を謀った罪で、アルベイル領は没収され、王家の直轄地となった。

 そしてシュネガー侯爵領を初め、アルベイルに奪われた土地は元の領主へと強制返還されることに。


 だけどアルベイルの暴走を止めたのも、またアルベイルだったこともあって、幾つかの恩赦が与えられた。


 その一つが、王家の直轄地となった旧アルベイル領の代官として、父上の弟にあたる人物が派遣されたことだ。

 僕やラウルの叔父でもあるのだけれど、父上と違って温厚で、戦争を嫌ったことから、十代の頃にアルベイルを離れて王都で勉強し、文官として王宮に務めていたらしい。


 ちなみにラウルが代官となる案もあったのだけれど、これはラウル自身が断った。

 そしてどういうわけか、王宮に残ると言い出したのだ。


「王家がここまで弱体化しちまったのも、国軍が脆弱すぎるからだ。この俺が入って、内側から鍛え直してやるぜ」


 どうやらこれは王様も歓迎したらしい。

 国軍が強くなり、諸侯の争いに介入できるようになれば、次第にこの国の戦乱も収まっていくことだろう。


 そして主犯である父上は……。


 ラウルの剣で致命傷を負い、どうにかポーションの力もあって一命を取り留めはしたけれど、それからまだ目を覚ましていない。

 目覚め次第、裁判にかけるそうだけれど……間違いなく死刑は免れないだろう。




    ◇ ◇ ◇




「……そ、それにしても、とんでもないギフトであるな。こんなに簡単に王宮を作り替えてしまうとは……」

「これから王都の方も作り替える予定ですよ」

「しかも、これが影武者の手によるものか……まるで本人と見分けもつかぬし……ううむ……」


 ルークの影武者は、早速、王宮のために働いていた。

 まずは挨拶代わりとばかりに、王宮を高さ百メートル越えの高層建築へと生まれ変わらせている。


 少々やり過ぎてしまいがちなのは、本体の性質を受け継いでいるからだろう。


「ああ、ルーク様……さすがですわ……(いずれあたくしが王位を継いだときには、ルーク様を王婿に……うへへへ……)」


 そんな影武者をうっとりと眺めている王女様がいたことを、この時の国王も影武者も気づいてはいなかった。


 と、そのときである。


「た、大変です、陛下っ!」

「どうしたのだ?」

「アルベイル卿がっ……牢屋から脱走してしまいました……っ!」

「何だと!?」








 地下牢から姿を消したアルベイル卿。

 そのことで王宮が大混乱に陥っている頃。


 王都から随分と離れたその場所に、複数の人影があった。


「ほほほ、ネオン、さすがですねぇ。王宮を敵に奪われても、ただでは起きませんでしたか」

「黙れ。お前たちこそ、王宮の奪還に失敗したくせに。どの口が言う」

「……喧嘩は……やめるべき……」

「その通りである! もはや互いを責めても仕方あるまい!」


 アルベイル卿の側近であった四将たちだ。

 戦いに負け、牢屋に捕えられていた彼らだったが、あらかじめ王宮内の構造を熟知していたネオンの先導によって、無事に脱走することに成功したのである。


 そして彼らの他にも、もう一人。


「エデル様、これからいかがなさいましょう? 我らはもはやお尋ね者。再起して改めて国を盗るにしても、まずはどこか身を落ち着かせられる場所が必要かと」


 そう、ひと際厳重な警備の下、投獄されていたエデル=アルベイルもまた、彼ら四将とともに王都から逃げ延びていた。


「……もはや国になど興味はない。幾ら弱き者どもを寄せ集めて訓練したところで、所詮は弱者だ。労力とあまりに釣り合わぬ」

「ほほほ、なるほど、その通りでありますねぇ」

「主導者など割に合わん。代わりに、私は私自身を試してみたい。一武人として、果たしてどこまで強くなることができるのかをな」


 そう告げて、アルベイル卿、否、ただのエデル=アルベイルは歩き出す。

 その頼もしい背中を、四将たちは自然と追いかけていた。


「ふははは! さすがはエデル様だ! ならばその新たな道のお供をしやしょう!」

「ほほほ、ガイオン、抜け駆けは許しませんよ」

「……メリベラこそ……自分も……エデル様に、血の中水の中……ついていく……」

「どうやら全員が同じ気持ちのようだな」


 四将たちは誰一人として迷う様子はなかった。

 今後もエデルの後に付き従う腹積もりらしい。


 こうして彼らは、国外へと逃亡したのだった。







「それにしても……俺たちが脱出してきたあの地下道……なぜ地下牢なんかにその出入り口があったんだ……?」





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書籍版の第2巻、本日発売されました! 早いところだと昨日から並んでいるようです。ぜひよろしくお願いいたしますm(_ _)m


そして父親との決着もついたところで、ちょうど第三章が完結です。ここまでお読みいただきありがとうございました。少しでも面白いと思っていただけたら、ぜひ↓の☆で評価してもらえると嬉しいです。

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