第86話 もしかして嫌がらせ

 どうやら村人鑑定Ⅱは、随分と多くの情報を得られるらしい。


 ただ幾ら村長とはいえ、勝手に村人のプライベートな部分を覗き見るのはよくないと思う。

 本当に必要なとき以外は使わないようにしよう。


「どうされましたか、ルーク様?」

「な、何でもないよ」


 不思議そうな顔をするミリアに、僕は狼狽を隠しながら首を振る。


 ……それにしてもショタ好きってどういう意味だろう?

 いや、深く追及してはいけない気がする……うん。


「それより何の用?」

「はい。実はお見せしたいものがありまして」

「見せたいもの……?」

「ぜひこちらへ」


 そうしてミリアに連れてこられたのは、村の中心に設けた広場だ。

 ちなみにすぐ隣が子供たちの遊び場になっている。


 その広場の真ん中に、大きな布を被せられ、隠された物体があった。

 もしかしてあれが見せたいものだろうか?


 ミリアが招集したのか、広場には村人たちが集まっていた。

 普段はダンジョンにいるはずのドワーフたちの姿もある。


「では、ご覧いただきましょう」


 ミリアがそう言って合図すると、ゴアテさんがその怪力を活かし、布を一気に取り払った。


「……え?」


 そこにあったのは、高さ三メートルを超える巨大な石像だった。


 左手は腰の位置に、両脚は少し開いて何やら偉そうに胸をそらしながら、きりっとした表情で遠くの方を見つめ、右手をそちらへ伸ばしている。

 まるで物語に登場する英雄を象ったような石像だ。


 だけど生憎とこんな英雄は見たことがない。

 それもそのはず、なにせこの石像の顔、僕にそっくりなのだ。


「「「おおおおおおおおおっ!!」」」

「素晴らしい! まさにルーク様そのものだ!」

「なんと凛々しいお姿か……」


 村人たちは何やら大きく盛り上がっているみたいだけど、僕はまったく状況がつかめないでいる。

 え、何これ、もしかして嫌がらせ?


「この日のため、実は密かに作っていたのです。特にドワーフたちは器用な者が多く、見事にルーク様の凛々しい姿を再現してくれました」


 集まったドワーフたちを見ると、一仕事やり切ったというような充実した表情を浮かべていた。

 さすがに嫌がらせで作ったようには思えない。


「でも、何でこれを……?」

「ルーク様、おめでとうございます! 本日はこの村が築かれ、ちょうど一年! 記念すべき建村記念日にして、ルーク様の栄光の始まりの日なのです!」


 僕が困惑していると、ミリアが高らかに宣言するように教えてくれた。


「あ、そうだったっけ? もうあれから一年か……」

「はい! あのときはわたくしとたった二人。何もない荒野を前に、愕然とするわたくしへ、ルーク様は狼狽えることも絶望することもなく、こうおっしゃいました。『確かにここには何もない。でも、だからいいんじゃないか。だって、すべてを自分の手で作り上げることができるんだからね』」


 言ってない!

 僕そんなこと言ってないよ!


「「「おおおおおおおおおっ!!」」」

「さすがはルーク様! やはり我々凡人とは端から考え方が違う!」

「ああ、まさに英雄そのもの……」


 ミリアが改竄しまくった僕の言葉に、村人たちが大いに湧く。

 ……い、言えない……今さら、そんなこと言ってないなんて……。


「そんなこと言うキャラだったかしら?」という顔をしているのは、昔からの僕を知っているセレンだけだ。


 僕が項垂れていると、さらにミリアがそれに追い打ちをかけるようなことを言ってきた。


「さらに、もう一つ建村を記念し、こんなものも作らせていただきました」

「まだあるの!?」


 つい悲鳴を上げてしまう僕の目の前に置かれたのは、一冊の本だった。


「ルーク様の栄光の軌跡を記した書物です」

「……は?」

「『文才』ギフトを持つトトルに書いていただきました。もちろんこれは第一巻で、これからさらに巻数を重ねてまいります。第一巻ではルーク様の幼少期のことも大きく取り上げており、必読の一冊となっております」


 ……僕、ただの村長だよね?

 普通こういうのって、偉大な実績を残した人じゃないとおかしいよね?

 しかもだいたいは本人が死んだ後に、弟子とか後世の人が出していくものだと思う。


「そして現在、量産に向けた準備を進めているところです。これがあれば、さらに信者を拡だゲフンゲフン……さらに多くの人に、ルーク様とこの村のことを知っていただくことができるでしょう」


 今、信者って言わなかった……?

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