第238話 いいから脱げってば

「え? 公衆浴場を少し改修してほしい?」


 ララさんの提案に、僕は首を傾げた。


「そうなんだよー。実は他の奴らからも要望を受けててさ。ほら、簡単に直せるんだろ?」

「うん、できるけど……具体的にはどんなところ?」

「それは実際に見た方が早いと思う!」

「そ、そう? じゃあ、一時休業にしないとね」

「そのときは施設が利用できないってことか? 別にそんな必要はないと思うけどな?」

「いやいや、そんな必要はあるよ!」


 普通に利用されていると非常に困る。

 そんなわけで翌日、一時利用休止にして、僕はララさんと一緒に公衆浴場へとやってきた。


「それで、直してほしい場所というのは?」

「浴場の方だ」


 ララさんに案内されて、脱衣所を通り抜けて浴場へと足を踏み入れる。


 かなり広い。

 ちょっとした旅館の大浴場くらいはあって、一番広い湯船は、五十人くらいが一度に利用しても、のびのびと浸かることが可能だ。


 室内の他に、屋外にも湯船がある。

 開放的な露天風呂も獣人たちに気に入ってもらっていた。


「湯船の方なんだ」

「湯船?」


 お湯が張られ、湯気が立ち昇る湯船を覗き込んだそのときだった。


「えい」

「えっ!?」


 どぼーんっ!


 ララさんにいきなり背中を押されて、頭から湯船の中にダイブしてしまう。


「ぶはっ! ちょっ、何するの!?」

「はははっ! ルークと一緒にお風呂に入ろうと思ってさ!」

「え? じゃあ、改修の話は……」

「あれは嘘だ!」


 僕がびしょ濡れになりながらジト目を向けると、ララさんは悪びれもなく言った。


「だって、誘っても全然一緒に入ってくれないだろ?」

「だからって強硬手段はやめて! って、何で服を脱ぎ始めてるの!?」

「言っただろ? 一緒に入りたいって!」

「~~~~っ!」


 あっという間に身に付けていた衣服を脱ぎ捨てるララさん。

 僕は慌てて後ろを向いた。


 どぼんっ!


 するとお湯に飛び込んできたようで。


「何だよー、女同士なんだから恥ずかしがるなよー」


 僕は男なんだよ!

 だけどそんなことをこのタイミングで言えるはずもなく。


「うわっ!」


 そのまま後ろから抱き着かれてしまう。

 すべての服を脱いでしまったようで、背中越しに柔らかな感触がはっきりと伝わってくる。


「ほら、お前も脱げって!」

「ちょっ!?」


 さらにララさんは僕の服を無理やり脱がそうとしてきた。


「ダメだろ? 湯船の中に服を着て入っちゃ。最初にそういうルールだって教えてくれたのはルークだろー」

「服のまま入ったのは誰のせいだと思ってるんだよ!」

「いいから脱げってば!」

「ひゃっ!?」


 さすがは獣人、めちゃくちゃ力が強い。

 僕は湯船の中であっさり裸にひん剥かれてしまった。


 どうにか大事な部分だけは見られないよう必死に隠す。


「でもほら、すっごく気持ちいいだろ! それにこのお風呂に入り出してから、肌艶もすごくよくなったんだ!」

「……知ってるよ」

「う、ま、まぁ、そうだよな……」

「ううう……」

「な、泣くなって! 悪かったよ。こんなお風呂があるくらいだから、人族は裸なんて気にしないと思ってたんだ」


 こうなったら裸が恥ずかしいキャラで押し通すしかないと、僕は涙目で距離を取った。

 さすがに悪いことをしたと思ってくれたのか、ララさんは申し訳なさそうに謝ってくる。


「一緒に入ったら、不思議と群れのみんなと今まで以上に仲良くなったんだ! だから、お前とも入りたいなって……」

「……そうだったんだ」


 その気持ちはとてもありがたいけれど……男であることを隠している僕からしたら良い迷惑だった。

 万一バレたら処刑されるみたいだし!


「くく、そういうこった。しかしまさか、身体を綺麗にするだけでなくて、村の結束を高める効果もあるなんてな」

「って、リリさんまで!?」


 なぜかリリさんまでもが浴場に入ってくる。

 しかもすでに裸だ!


 すらっとした細身で、すごく四肢は引き締まっているのに、胸だけは凄く大きい。

 って、見ちゃダメだ、見ちゃダメ……。


「てなわけだから、しばらくあたしたちに付き合え」


 本当は今すぐにでも瞬間移動で逃げ出したい。

 ただ逃げたら怪しまれ、かえって墓穴を掘ることになるかもしれない……。


 ……よし、ここは影武者に任せて意識だけ本体に戻そう。

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