第327話 破門にされてたんだ

 予想とは裏腹に、オオサクの人たちに嫌悪感を抱かれているらしいガイさん。


「あの坊主、わいの目には世俗を捨て切れてへんように見えるで」

「なんや、うちらと同類ちゅうことか」

「いや、金っちゅうより、なんとなく色欲な気がするで」

「エロ坊主やんか! まぁそれもわてらと同じやな! なははははっ!」


 あ、でも、見抜かれてる……。


「その通りである。宝蔵寺にいたのは昔のこと。煩悩に己の身を任せ、ついおなごと遊んでしまったことが和尚に知られて、破門になったのである。そして今は煩悩と共に生きる、新たな信仰の道を模索しているところであるのだ」


 ……破門にされてたんだ。


「新たな信仰の道っちゅうと?」

「うむ、拙僧の考えでは、世俗を捨てて出家などせずとも、たとえ煩悩に囚われていようとも、人は救われることができるはずである。なぜなら仏の心は海よりも深く、空よりも広い。ただ念仏を一心に唱えるならば、いかに罪深き人間とて、仏は我らを極楽浄土へと連れていってくださるのだ!」


 力強く訴えるガイさん。

 ええと、単に自分の性欲を都合よく正当化しているだけにしか聞こえないんだけど……。


 だけど話を聞いていたオオサクの人たちは違ったみたいだ。


「じぶん、なかなか面白い考えしとるな。せやけど、うちらみたいな商人には、めっちゃありがたい教えや」

「せっかく頑張って商売をして金を稼いでも、出家したら全部捨てなあかんかった。もし働きながらでも救われる道があるっちゅうなら、そない嬉しいことはないで」

「もっと詳しく話を聞かせてくれへんか?」


 なんかガイさんが新興宗教の教祖みたいになり始めてる!?


「ともあれ、その前にまず彼らのことを太閤殿にお目通り願いたく。あの魔境の山脈を超え、西側から旅してきた方々である」

「ほな、上に話通してみるわ! 少し待っといてな!」


 それから僕たちは、すんなりとこのオオサクの国王にあたるらしい太閤殿との謁見ができることになった。


 通された豪奢な畳部屋の奥にいたのは、随分と小柄な人物だった。


「じぶんが太閤ヒデヨツや。遠路はるばる、よう来てくれたの」


 トヨトキヒデヨツと名乗った太閤殿は、いきなり押し掛けたにもかかわらず、僕たちを大いに歓迎してくれた。

 イエアス将軍のときと同様、まずは挨拶代わりに献上品を差し上げる。


「これは我が国セルティアで作られているポーションです」

「ポーションやと? それはまた珍しい品物やのう。しかし、セルティアでポーションが製造されとるなんて、聞いたことあらへんが」


 実はこのオオサク、海上ルートから西側諸国を船で行き来し、小規模ながら貿易を行っているのだという。

 セルティアと海の間にはバルステ国があるのと、長らくセルティアが内戦状態にあったため、セルティアとの直接的な貿易はなかったが、貿易商人たちを通じて情報は得ていたらしい。


「今は量産もできますよ」

「ほんまか? せやけど、簡単には行き来でひへんからなぁ」

「それがですね……」


 僕はエドウのときと同じように説明する。

 すると太閤殿は目を輝かせて、


「俄かには信じられへん話やな! せやけど、あのエドウが貿易を始めたちゅうなら、じぶんらも後れを取るわけにはいかんやろ! そのテツドウっちゅうのは、この国まで繋げられるんか?」

「もちろん可能です。我々としては、ぜひこの国で獲れた新鮮な魚を売っていただければ。片道一時間ほどですので、鮮度を保ったまま輸送できるかと思います」

「片道一時間!?」


 最近はバルステからも魚を輸入するようになっているのだけれど、荒野の村はバルステから遠い場所にある。

 このオオサクから仕入れる方が早いのだ。


 というわけで太閤殿の許可を得て、このオオサクにも鉄道を繋ぐことに。


 すでにエドウまで来ていたので、影武者の力でものの半日ほどで完成。

 その後、自ら電車に乗り、村までやってきた太閤殿は、建ち並ぶ高層建築物に驚愕したのだった。


「なんやこの大都市は!? こんなんが、山脈の向こう側にあったんか……」


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