第328話 撲滅大作戦だね

 オオサクは非常に賑やかな街だった。

 商売の国と言われているだけあって、あちこちに活気溢れる商店街があり、威勢のいい声で店主が呼び込みをしている。


「異国の青い嬢ちゃん! ぜひうちのたこ焼き食うてきや! うちのはオオサク一やで!」

「たこ焼き?」


 声をかけられて、首を傾げながら足を止めるセレン。


「小麦粉の生地にたこと薬味を入れて焼いたもんや! オオサク名物やで!」

「わっ、かわいい! まんまるね!」


 きれいな球形に焼かれたたこ焼きを見て、セレンが目を輝かせる。


「そこのきれいな黒髪の姉ちゃん、うちの串カツ食ってってや!」

「串カツ、とはどんなものなのでしょう?」

「兄ちゃん、えらいでっかいなぁ! いっぱい食べるんやったら、うちのボリュームたっぷりのお好み焼きがおすすめやで!」

「うふぅん、アタシは、お、ね、え、ちゃ、ん、よ?」


 ミリアやゴリちゃんも声を掛けられている。

 そうしてオオサクの街を観光していると、気になる噂が聞こえてきた。


「いつになったらキョウに商売に行けるんやろな」

「当分は難しいと思うで。最初は貧民街だけやったんが、みやこ中に広がっとるらしいからな。最近は公家の中にも罹ったもんがおるっちゅう話や」

「それは大変やな……」

「人の心配しとる場合やないで。こっちにまで入ってきたら、えらいことなるで。一応、キョウとの行き来を制限しとるみたいやけど……」


 一体何の話だろうか。

 故郷の話題が気になったのだろう、ガイさんが彼らに尋ねた。


「済まぬがその話、詳しく聞かせてくれぬか?」

「ひっ……あんた、キョウの坊さんやないかっ? それ以上、近づかんといて! 病気がうつってまう!」


 ガイさんの坊主頭を見るや、街の人が慌てて距離を取った。


「心配は要らぬ。拙僧はもう何年もキョウには帰っておらぬ」

「なんや、驚かせんといてえな……。ちゅうことは、キョウの流行り病のことも知らんのか」

「流行り病?」

「せや。なんでも、全身にイボみたいなんが大量に発生して、地獄のような痛みで死んでまう病気らしいで」

「そんなことに……」


 どうやら深刻な流行り病――疫病が広がってしまっているらしい。

 故郷の悲惨な状況を知り、ガイさんが顔を顰める。


「悪いこと言わへんから、今は戻らん方がええで」

「坊さんのあんたに言うのもアレやけど、念仏で病は治らんへんからな」


 そう忠告して去っていく街の人たちを見送りながら、ガイさんが呟いた。


「……拙僧の回復魔法を使えば、治療できるかもしれぬ」


 ガイさんは『白魔法』のギフトを持っている。

 その流行り病も、治せる可能性はあった。


 けれど、たった一人で何百人、何千人もの数を治療するのは難しい。

 回復魔法の使い手は決して多くないため、いったん大勢にまで広がってしまった流行り病を抑え込むのは簡単なことではなかった。


 下手をすると、自分にうつってしまって、命を落とす危険性もある。


「拙僧の力では焼け石に水かもしれぬ。しかし故郷の危機を見て見ぬふりすることはできん」

「ガイ、お前……」


 覚悟を決めた様子のガイさんを止めることなどできないのだろう、アレクさんが悲痛な表情で言葉を呑み込む。


「(……可愛いおなごを治療すれば、ワンチャンあるかもしれぬ)」

「ガイ、お前……今なんとなく、何を考えているか分かったぞ?」


 そんな彼らに、僕は言った。


「たぶん、エルフたちが作ってるキュアポーションを使えば治せると思うよ」

「うむ。我らのキュアポーションは、ありとあらゆる病気に効く優れものだからな」


 フィリアさんもその効能に太鼓判を押す。


「なるほど、キュアポーションね。その手があったじゃない。あたしたち冒険者は普通のポーションばっかり世話になってるから、すっかり忘れてたわね」


 ぽんと手を打って頷くのはハゼナさんだ。


「エルフたちに大量のキュアポーションを作ってもらって、それをキョウに持って行こう! 感染症の撲滅大作戦だね!」


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