第92話 至れり尽くせりだな

 村にやってきた四人組の冒険者たち。

 リーダーで戦士のアレクさん、魔法使いのハゼナさん、狩人のデルさん、そして僧侶のカムイさんだ。


 僕がダンジョンのことを伝えると、彼らは凄く驚いた。


「ダンジョン!? この村の近くにはダンジョンもあるのか!?」

「はい。つい最近、発見しまして」

「魔境にダンジョン……もはや冒険者にとっての聖地じゃねぇか……」


 さらに僕は、すでにダンジョンマスターと話をつけており、コアを破壊しないという契約をした上での探索が条件だと話す。


「同意していただかなければ、入場を許可することはできないです」

「いや、もちろん同意する。俺たち冒険者からしてみたら、わざわざダンジョンを破壊するなんざ、自分の首を絞めることと同義だからな」


 というわけで、僕は彼らをダンジョンの入り口へと案内することにした。


「え? 村の中にダンジョンが……?」

「そうです。その方が管理しやすいかと思いまして」

「(……? 先程はつい最近発見したと言っていたが……まるでダンジョンを村の中に移動させたかのような物言いだな……? いや、そんなことあり得ないが……)」


 そうして彼らを連れてきたのは、村の南西の一画。


「この建物の中です」

「これは……?」


 ダンジョンの入り口は今、四棟のマンションによって取り囲まれていた。

 そしてこのマンションは、このダンジョンに挑戦する人たちの宿泊施設として利用するつもりである。


「ってことは、これが宿!? 随分と馬鹿デカいが……」

「はい。あ、と言っても、ここは皆さんのようなダンジョンを攻略する方々専用です。今後を見越して、大き目に作っておきました」


 もちろん普通の宿も作った。

 そちらは家屋・中をカスタマイズしたものだ。


 これまでは一時的に村に滞在するだけの商人たちにも、無償でマンションの一室を貸し出していた。

 だけど宿屋を作り、それを村人に経営してもらうことにしたのである。


 この村では今までずっと村がすべてを管理し、村人たちに提供してきた。

 ただ、いつまでもそうし続けるわけにはいかない。

 村の規模を考えると、いずれ限界がきてしまうだろうし。


 そこで可能なものから、村人たちに任せていくことにしたのだ。

 商人との取引が増え、村にお金も入ってきたし、今後は村内のことであってもお金でやり取りができればと思っている。


「ちなみに村に飲食店もできたので、ぜひ利用してみてください。オーク肉やミノタウロス肉を使った料理が絶品ですよ」

「「「オーク肉にミノタウロス肉!?」」」

「はい。オーク肉は北の森でよく獲れるんですよ。ミノタウロスはこのダンジョンですね。もし収獲できたら買い取りますよ」


 今後は冒険者たち用に、素材の買取りなどを行う専門の窓口を作る予定だ。

 ダンジョンの状態が整ったので、商人たちに情報を流して、より多くの冒険者にこの村に来てもらいたいと思っている。


「オーク肉、美味いんだよな……高くてほとんど食ったことねぇけど……もう少し稼げるようになったらぜひまた食ってみてぇな……ミノタウロス肉に至っては食べたことすらねぇ」


 どちらも本来は高級肉だからね。


「この村だとお手頃な価格で食べれますよ」

「そ、それは本当か!?」


 そんなことを話している内に、四棟のマンションに囲まれた中庭のような場所へとやってきた。


「ここがダンジョンの入り口です」


 そこにあったのはあの巨大岩で、その足元にぽっかりと穴が開いている。


「こんなところに……」

「ていうか、中から魔物が出てきたりしないの?」

「心配ないです。ダンジョンマスターがそうならない設定にしてくれてますので」

「設定……?」


 アレクさんたちは首を傾げる。


「このダンジョンは階層構造になってまして、下層に行くほど魔物が強くなり、トラップも危険になります。ですので、まずは上の階層で慣れていただくのがいいかと思います」

「なるほど」

「それから、各階層間を繋ぐ階段の近くには、魔物が近づいて来ない安全地帯が設けられています。そこには小さいですが寝泊まりできる建物もありますし、ダンジョン内で休息を取りたいときなどに利用してください」

「な、なんだか至れり尽くせりだな……」

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