第227話 こんなに笑顔じゃないの
「アアン! 気持ちいわぁっ! ハァン! イっちゃいそう……っ!」
ゴリちゃんの自傷行為がヒートアップし、同時にその興奮も高まっていく。
ちなみにごく一部を除いて会場はドン引きだ。
セレンはどうにかゴリちゃんの興奮が頂点に達する前に凍結させようとしているけど、ゴリちゃんの体温が高まっているせいか、なかなか進まない。
僕も村人強化で秘かにセレンをサポート。
セレンに勝ってほしいというよりも、ただただ早くあの変態を凍らせないとダメだという思いだ。
だけど、ついにゴリちゃんが絶頂へと到達してしまう。
「イグぅぅぅぅぅぅぅぅおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
甘ったるい奇声が猛々しい雄叫びへと変わり、上半身の筋肉が膨れ上がる。
下半身を覆っていた氷には幾重もの亀裂が走った。
闘気が拳に集まり、それが砲弾と化して連射された。
「おらおらおらおらおらおらおらああああああああっ!!」
このままじゃセレンが負けてしまう!
村人強化、倍率十倍っ!
持続時間なんて無視して、一気に倍率を上げた。
これを躱せないとどのみち敗北は決定なので、やるしかなかった。
能力が十倍に跳ね上がったセレンが、信じがたいほどの敏捷性で、迫りくる砲弾を悉く回避していく。
そして横殴りの雨のような砲弾の群れを、なんと完璧に避け切ってしまった。
「う、うそぉん」
これにはさすがのゴリちゃんも呆然としてしまう。
その間に上半身まで凍っていき、やがてそれは頭にまで達して、
「まさか、アタシが負けちゃうなん、て……」
リング上にゴリちゃんの氷像が完成する。
さすがのゴリちゃんもこれでは戦闘続行は不可能だろう。
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」
試合の決着に、会場が揺れんばかりの大歓声が轟く。
だけどそのときだ。
セレンが手を挙げて、
「今の試合、私の負けよ!」
突然そんな敗北宣言をしたものだから、会場は一瞬で静まり返ってしまった。
ちょっ、セレン……?
な、何を言ってるの!?
どうにかゴリちゃんの優勝を阻止できたと胸を撫で下ろしていた僕も、動揺のあまり言葉を失う。
セレンはゴリちゃんを閉じ込めていた氷を水へと変えた。
話を聞いていたらしいゴリちゃんは訝しそうに眉をひそめている。
「……一体どういうことかしら?」
「今の試合、普通なら私が負けていたもの! だからあなたの勝ちよ!」
ゴリちゃんには何か納得できるところがあったのか、「なるほどねぇ」と頷いて、
「セレンちゃん、アナタって、とぉっても真面目で良い子なのねぇ。アタシ、惚れ直しちゃったわん♡」
「当然のことよ。悔しいけど、あなたの方が私より強かったわ。でも次は負けないから!」
そうしてリングから降りてくるセレン。
そのまま控室の方には行かずに、なぜか真っ直ぐこっちに向かってくる。
むすっとしていて、随分と怒っているみたいだ。
しかもその目はずっと僕の方を見ている。
……嫌な予感しかしない。
僕は回れ右して逃げようとしたけれど、その前にセレンに肩を掴まれてしまった。
は、速い!
「ふふ、ルーク? どこに行こうというのかしら?」
「い、いや、ちょっとトイレに……」
「その前に聞きたいことがあるんだけど?」
「あ、後でもいいかな? 結構我慢してて……すぐに行かないとマズいっていうか……」
「大丈夫。すぐに話は終わるから。それより何でこっちを見ないの?」
「だって……めちゃくちゃ怒ってるよね?」
「怒ってないわよ。ほら、見てみなさい。こんなに笑顔じゃないの」
恐る恐る振り向くと、目がまったく笑っていないセレンの顔があった。
額の辺りには青筋が浮かび上がっている。
どこからどう見ても怒ってる!
「ねぇ、ルーク? さっきの試合中……力を使ったわよね?」
バレていた!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます