第74話 笑い死ぬかと思った

 僕も一緒に行こうとしたら、セレンに止められてしまった。


「何でダメなのさ。僕も一度でいいからダンジョンに潜ってみたかったんだ」

「そう言って死んだ人の話、聞かせてあげようかしら?」

「そ、それはちゃんと準備をしてなかったとか、無謀にもどんどん奥まで入っていっちゃったとか、そういう人の話でしょ?」


 セレンの脅しに、僕は反論する。


「熟練の冒険者でも死ぬのがダンジョンなの。それに、見つけたばかりでまだどんな危険なダンジョンかも分かっていないんだから。大人しく村で待ってなさい」

「……セレンはちょっと過保護すぎると思う」


 僕だってこの春には十三歳になるのだ。

 セレンはすでに初陣を経験している年齢のはず。


「わたしは戦えるギフトがあるからいいのよ。あなたは周りに守ってもらわないといけないんだから」

「そう言われると反論できない……」


 結局セレンに言い負けて、僕は村に残ることになってしまった。


 ……なんてね。

 実はこんなこともあろうかと、ある秘策を考えていたのだ。


 諦めるふりをしながらも、僕はそれをこっそり実行に移すのだった。



    ◇ ◇ ◇



 セレン一行は再びダンジョンの入り口に辿り着いていた。

 今度はメンバーもダンジョン仕様に整え、万一に備えたエルフのポーションなどのアイテム類も持ってきている。


「準備は万端ね。……カムルは大丈夫かしら?」

「だだだ、大丈夫では……ねぇです……」


 緊張しているのか、震える声でセレンに応じるカムル。

 本当に大丈夫じゃなさそうね……と半分呆れつつも、セレンは言う。


「心配要らないわ。ちゃんと様子を見つつ、慎重に潜ってく予定だから」

「へ、へえ……」


 ともかくそのうち慣れていくだろう。

 そう考えて、早速、ダンジョンへと足を踏み入れることに。

 最初の緩やかな坂を下っていく。


「それにしてもゴアテ殿、随分と大きな荷物を背負っているな」

「ああ。村長が念のため水や食料も持って行った方がいいと、用意してくれたんだ」


 フィリアの指摘に『巨人の腕力』のゴアテが答える。

 彼が背中に背負った鞄はパンパンに詰まっており、随分と重そうだ。

 ゴアテでなければ、こんなに軽々と背負っていられないだろう。


「……ちょっと待ちなさい」


 と、そこで何らかの異変に気付いたのか、セレンがゴアテの背負う荷物を睨む。


「中から変な音がしてない? 呼吸音みたいな……」

「……ははは、そんなはずはないですよ、班長。たぶん、中身が擦れる音じゃないかと」

「そうかしら? 一応、中を確認してもいい?」

「い、いやいやいや、もうダンジョンの中だし、こんなとこで……」

「だったら引き返して外で確認しましょう」

「さ、さすがにそこまでやる必要はないと思いますよっ?」


 セレンの追及に、明らかに慌て出すゴアテ。

 ここまであからさまに狼狽えていると、セレンでなくても怪しむだろう。

 どうやらゴアテは嘘を吐くのが苦手なタイプらしい。


「そうね。ま、食べ物だったらわざわざ改める必要はないわね」

「そ、その通りです」

「隙あり」

「あっ」


 油断させておいてから、セレンは一気に距離を詰め、ゴアテの背負う荷物を掴んだ。

 そして何を思ったか、そのまま荷物を揉み始める。


「っ!? あっ、ちょっ! あはは……っ! あはははははっ!」


 すると中から笑い声が聞こえてきて、その場にいる誰もがぎょっとした。


「荷物から声が!?」

「な、何が入っているんだ!?」

「しかしどこかで聞いたことのある声のような……」


 さらに荷物の中から叫び声が響く。


「せ、セレン! こそばゆいってば! あははははっ!」

「おかしいわね? 食べ物だったら痛くも痒くもないはずだけど?」

「わ、分かったから! もうやめてよ! あははっ……あはははっ!」

「じゃあ大人しく出てきなさい」


 セレンが手を止めると、観念したのか、中から一人の少年が這い出してきた。


「ひ、ひぃ……笑い死ぬかと思った……」

「「「そ、村長!?」」」

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