第325話 わしは夢でも見ておるのか

 イエアス将軍から鉄道建設の許可をもらったので、早速、山脈の地下を通す形で作っていくことにした。


「話は聞いていたが、正直言って、まったく意味が分からぬのじゃが……」


 その監督役を任されたマサミネさんが、何度も首を傾げながら訊いてくる。


「簡単に言うと、この山脈の下に長いトンネルを掘って、そこを人が乗れるような巨大な鉄の塊を走らせるんです」

「説明されても理解できぬのじゃ……そんなことが可能とは思えぬ……」

「えっと、一応、こちらにもギフトはあるんですよね?」

「ギフト? もしかして〝天賦〟のことかの?」

「こちらではそう呼ばれてるんですね」


 ギフトを授ける人のことも、神官ではなく〝神主〟と呼ばれていて、教会ではなく、各地にある〝神社〟で〝祈祷〟を受けるらしい。


「これから見せるのは、そのギフト……ええと、天賦の力なんです」

「天賦の……? それを聞いてもまだピンと来ぬのじゃが……」

「とりあえず、地下道を掘っていきますね」


〈地下道:地下を通行するための道路。常時点灯。自動空調〉


 ちなみに掘っていく場所は、伊達家の屋敷の一角。

 最終的な出入り口は後から調整すればいいので、ひとまずここから地下道を伸ばしていく予定だった。


「掘るって、まさかお主が自分で……? 何の道具も持っておらぬが――」


 直後、突如として地面に出現する階段。

 マサミネさんが固まった。


「――は?」

「降りていきますねー」

「何が起こったのじゃ!? 一瞬で階段が!?」


 驚愕するマサミネさんを連れて階段を下りていった。


「まだ短いですけど、こんな感じで地下道になってます。これを伸ばしていきますね」


 すぐそこで行き止まりになっていた壁が、目の前でどんどん後退し、遥か先まで地下道が続いていく。


「わしは夢でも見ておるのか……?」

「夢じゃないですよ。続いて、ここに鉄道を敷いて……」


 地下道に線路が現れる。

〈鉄道:列車を走らせるための道。人や貨物を大量輸送できる。魔物の接近防止機能付き〉


「この辺に駅も設置しますね」


 今度はホームと電車が出現した。

〈鉄道駅:列車を停止させ、乗客の乗り降りや貨物の積み降ろしをするための施設。列車つき〉


「この鉄の塊が電車です。これで人や物を輸送するんです」

「こんなものが本当に走るのか……」

「走るんですよ。では、ここからは影武者に任せますね」


 僕のすぐ脇に、瓜二つの影武者が出現する。


「ルーク殿が二人!? どういうことじゃ!? まやかしか!?」

「ちゃんと実体がありますよ。これも天賦の力なんです」

「こんな風に喋れますし」

「そんな天賦、聞いたことないぞ!? なんというものなのじゃ!?」

「『村づくり』ですね」

「村の要素どこにあるのじゃ!?」


 後のことは影武者に任せることに。

 このまま地下道と線路を延伸させ、荒野の村まで繋いでもらうつもりだ。


「じゃあ、終わったら教えてね」

「了解」






 影武者が鉄道を作っている間、僕たちはエドウの街を探索してみることにした。


「ねぇねぇ、あれは何かしら、赤い門みたいなやつ! でも扉がついてないわ!」

「あれは鳥居であるな。神社の入り口である」

「随分と人で賑わってるわね。礼拝の日なのかしら?」

「いや、どうやらちょうど祭りが行われているようである」


 セレンとガイさんがそんなやり取りをしていると、向こうから騒がしい集団が近づいてきた。


「「「わっしょい、わっしょい!」」」

「「「わっしょい、わっしょい!」」」

「「「わっしょい、わっしょい!」」」


 そんな掛け声を発しながら、巨大な箱のようなものを担ぐ集団だ。

 よく見ると箱は小屋のような形状をしていて、煌びやかに飾り立てられている。


「何よ、あれは!?」

「神輿である。普段は神社に住まわれる神様を一時的にお乗せし、街中を旅していただくためのものだ」

「こっちの神様は、随分と賑やか好きなのね」


 ちなみにその神輿を担いでいるのは、ほとんどパンツ一丁の屈強な男性たちだ。

 彼らを見たゴリちゃんが「うふぅん」と艶めかしい声を零して、


「とぉってもセクシーな恰好ねぇ。見てるだけで興奮してきちゃう♡」


 ぞわぞわぞわぞわぞわぞわぞわぞわぞわぞわっ!

 ゴリちゃんの強烈な視線を感じ取ったのか、一瞬男性たちの動きが止まり、神輿がひっくり返りそうになってしまった。

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