第189話 ドアを閉めただけだから

 美容院(200) 鉄道(50) 鉄道駅(500) 博物館(500) 工場(1500)


〈美容院:容姿を美しくするための施設。みんなで綺麗になろう!〉

〈鉄道:電車を走らせるための道。人や貨物を大量輸送できる。魔物の接近防止機能付き〉

〈鉄道駅:電車を停止させ、乗客の乗り降りや貨物の積み降ろしをするための施設。電車つき〉

〈博物館:人類遺産を保存・展示、あるいは調査・研究するための施設。作品の劣化防止。防犯設備。村人の教養アップ〉

〈工場:様々な製品を大量に生産・製造するための施設。安全第一〉


 レベルアップによって、新しく作れる施設が増えた。

 気になるものは多いけれど、中でも僕が驚いたのは、


「え! 鉄道と駅がある……っ!?」


 当然だけれど、この世界にはまだ存在していない交通システムだ。


 早速試しに作ってみようと、僕は城壁近くの空いたスペースへとやってきた。


「まずは駅を……」


 出現したのは、比較的シンプルな駅だった。

 簡素な駅舎があるくらいで、その先にホームは二面、その間に挟まれるようにして二本の線路がある。


 その線路の上に、一両だけの電車が二台、あらかじめ停車されてあった。

 中に入ってみると、なんだか懐かしい気分になってくる。


「そうそう、この感じ。前世でよく乗ってた気がする」


 操縦席に入って、運転士が座る椅子に座ってみた。

 ……背が低くて前が見えない。


 仕方ないので椅子の上に膝立ちして、どうにか前方を確認できるようになった。


「ええと……でもどうやって運転するんだろ?」


 ハンドルやボタン、計器が幾つもあって、どれが何に対応しているのか分からない。


「まぁ僕以外に誰も乗ってないし、適当にやってみたらいいかな」


 というか、そもそもこれ、ちゃんと走るのかな?

 そんなことを考えていると、後ろから叫び声が聞こえてきた。


「ちょっと、何よこれは!?」


 振り返ると、いつの間にかセレンが電車に乗ってきていた。


「巨大な芋虫の魔物かと思ったわよ」

「電車だよ、電車」

「デンシャ……?」

「うん。これ、地面に敷かれたレールの上を走ることができるんだ」

「こんなのが走るの……?」


 うーん、どのボタンだろう……まずはドアを閉めないとだけど……。


「あ、これかな?」


 プシュウウウウッ!!


「な、何っ!?」


 いきなり閉まったドアに反応し、セレンが咄嗟に剣を構える。


「大丈夫。ドアを閉めただけだから」


 それから僕は適当にボタンやハンドルを動かしてみて、ようやく電車を前進させる方法を突き止めることができた。


 すぐ目の前のハンドルを手前に引くと、巨大な鉄の塊がゆっくりと動き出す。


 ……どうやって動いてるんだろう?

 電気を供給している架線があるわけでもなければ、線路沿いに送電用のレールがあるわけでもなさそうだし。


 まぁ、荒野の家に電気やガスが通ってるんだから今さらだけど。


「凄い! ほんとに進んでるわ! で、でもこのままじゃ城壁にぶつかっちゃう!?」


 セレンが悲鳴を上げた。

 僕は施設カスタマイズを使い、城壁にトンネルを作ると、さらに城壁の手前で途切れていた線路を延長させていく。


 城壁のトンネルを通って、村の外へ。

 と言っても、まだここは畑などがある一帯だ。


 その畑を突っ切って、外側の城壁を抜ける。

 電車は荒野へと飛び出した。


 ガタンゴトン、ガタンゴトン――


 心地よい走行音を奏でながら電車が荒野を疾走する。


「かなり速いわね! どんどん加速してくわ!」

「……」

「あっという間に荒野の終わりが見えてきたじゃない!」

「……」

「こんなのがあったら、王都までだってきっとあっという間ね! 瞬間移動ほどじゃないけど!」

「……」

「どうしたの? さっきからずっと黙っちゃって?」

「ええと……怒らないでね?」

「ちょ、何があったのよ……? 怒るかどうかは内容によるけど、すぐに言わないと間違いなく怒るわ」

「……どうやって止めるのか分からない」

「ええええええええっ!?」

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