第259話 報告は本当だったのだな

「ああ、なんて素晴らしい教会でしょう……っ!」


 新しくできた教会、いや、大聖堂の素晴らしさに、ミリアは思わず感嘆の声を上げる。


「さすがはルーク様です。これほどの建造物を、相変わらず一瞬で作ってしまわれるなんて」


 ただ大きいだけではない。

 魅力的な外観デザインに加え、壁には緻密な装飾や彫刻が施されていて、遠目からも近くからも、見る者を圧倒してしまう。

 これそのものが、まるで一つの巨大な芸術作品のようである。


 もちろん外観のみならず、内観も見事だ。

 まず目を引くのはアーチ状の天井が続く長い廊下で、その天井は見上げるほどに高い。


 両側の壁には神々しい巨大なステンドグラスが嵌められていて、鮮やかな色合いの絵が描かれている。


 広い廊下を抜けた先で広大な空間が出迎えてくれた。

 長椅子がずらりと並べられ、奥には大きな祭壇が設けられている。

 祭壇の向こう側には神様を模したと思しき像があった。


 どうやらここが礼拝堂らしい。

 恐らく軽く千人以上は収容することができるだろう。


 窓から差し込む淡い陽光で神秘的な雰囲気が漂う中、ミリアはゆっくりと祭壇の近くまで歩いていく。

 そして神像を見上げたミリアは、珍しく神妙な顔つきをしながら、


「この像をルーク様に改造し、崇め奉ることができるようにしたいですね。早速ドワーフたちに依頼いたしましょう」


 神をも恐れぬ台詞を口にするのだった。



      ◇ ◇ ◇



 私の名はグレリオ。

 バルステ王国で高官を務めていた私はこのたび、使者として北のセルティア王国へ赴くこととなった。


 生きて帰れるかどうか分からない、命懸けの任務だ。

 というのも、つい先日、我が国の軍が隣国へと攻め入りながらも敗北を喫し、それから最初の使者派遣なのである。


 万一隣国を怒らせてしまったら、私はその場で即刻、斬り捨てられてしまうかもしれない。

 慎重を期した交渉が必要不可欠だった。


 そうして隣国との国境線近くまでやってきた私たち使節団は、思わずその場に立ち尽くしてしまった。


「あ、あれが……報告は本当だったのだな……」


 東西に延々と伸びる巨大な壁。

 それが両国の間を、完全に分断しているのである。


 しかもほんの少し前までは存在すらしていなかったという壁だ。

 我が国が投じた五万もの兵力が、ほとんど戦わずして引き返してしまったのも納得がいく。


「軍を率いたテスラ将軍によれば、突然、地面から湧いて出てきたとのことだが……さ、さすがにそれはあるまい」


 先日の戦いでは総大将を任されたテスラ将軍は、百戦錬磨のバルステ随一の武将だ。

 嘘を吐くような男ではないはずだが、それでもさすがにその荒唐無稽な報告は、嘘と断ずる他ないだろう。


「ともかく、まずはあの壁を越えるしかないわけだが……通してもらえるだろうか?」


 そんな私の危惧は、あっさり杞憂に終わってしまった。


 武器も持っていないこちらが、すぐに使者団だと分かったのだろう、警備に付いていた兵の案内で壁に設けられた小さな通用口へ。

 壁の厚さを認識させられる長く細い通路を経て、反対側へと出ることができた。


 ちなみに人一人がやっと通れる程度の大きさなので、大軍での通過は不可能だろう。


 セルティアの兵たちに警戒されつつも、この地を治めるタリスター公爵の要塞都市へと向かう。

 驚いたのが、大した距離ではないにも関わらず、立派な道路が敷かれていたことだ。


 しかも一本だけではない。

 この壁と都市を複数の道路が繋いでいるのである。


 有事の際、少しでも早く行き来ができるようにするためだろうか?

 費用対効果を考えると、何とも勿体ない気がするのだが……いや、あれだけの壁を築くことを思えば、この程度は造作でもないのかもしれない。


 そんなことを考えながら道路を歩き出した瞬間だった。


「……え? い、今、一瞬で数メートルくらい進まなかったか!?」

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