第271話 二度と生えてはこぬのじゃ

 ワイバーン狩りを終えた僕は、公園を三次元配置移動のスキルで飛ばし、村へと戻ることにした。


「(そもそも何なのじゃ、この空飛ぶ地面は……? この大きさのものが、一体どんな原理で飛んでおるのじゃ……?)」


 可愛らしい幼女の姿へと人化したドラゴンも一緒だ。

 縄張りに入って怒らせてしまったお詫びに、彼女にワイバーン料理を振舞ってあげることにしたのである。


「村にはすぐに着くからね」

「う、うむ……(もしやこれ、罠ではなかろうな……? わらわを捕えて、後からじっくり調理する魂胆かも……。だとすれば、マズいことになったのじゃ! 先ほどはつい勢いで頷いてしもうたが、何とかして断らねば……っ! じゃ、じゃが、もしわらわが感づいたと思われては、すぐに仕留めようとするやも……くっ、一体どうすればよいのじゃ!?)」

「ねぇ、君には名前とかってないの?」

「っ!? な、何じゃ!? わらわの顔に何か付いておるかっ!?」

「そうじゃなくて、何て呼べばいいのかなって」


 ドラゴン幼女は長いし、そもそもドラゴンをドラゴンと呼ぶのは、僕たちで言うと個人を人間と呼ぶのと一緒だから変だよね。


「我らドラゴンに名前などない! 互いを名前で呼び合うことなどないからの!」

「そうなんだ」

「適当に好きなように呼ぶがよい」


 特に呼ばれ方にこだわりもないらしい。


「と言われても、何が良いか、ピンとくるものもないけど……」

「ドーラちゃんはどうかしらん?」


 頭を悩ませていると、ゴリちゃんが提案してくれた。


「悪くないと思うよ。じゃあ、ドーラって呼ぶことにするけどいい?」

「勝手にするがよいのじゃ」

「うふぅん、とっても可愛いお名前よぉっ! ドーラちゃん、よろしくねぇ!」

「(……しかし、さっきから何なのだ、こやつは? 人間というより、むしろ魔物に近い気がするのじゃが……)」


 目をハートにして腰をくねらせるゴリちゃんに、ドーラが少し引いている。

 ドラゴンからしても、ゴリちゃんはインパクトのある存在なのかもしれない。


「そ、そんなことより、本当にわらわが人間の村などに行っても構わぬのか? きっと迷惑じゃろう?」

「あはは、気にしないくていいよ。ちょっと角や尻尾が注目されるかもだけど、その姿なら大丈夫。みんな優しくしてくれるから」


 遠慮しているのか、複雑そうな顔で訊いてくるドーラに、僕は断言する。


「そ、そうか……」

「うちには凄腕の料理人が沢山いるんだ。きっと美味しく料理してくれるよ」

「(美味しく料理って、それはもちろん、ワイバーンを、じゃよな!? それともわらわのことか!?)」

「オークやミノタウロスなんかも名物料理になってるんだ」

「(まさか、わらわをそのラインナップに加えようとしておる!?)」


 とそこへ、食いしん坊ぞろいの狩猟隊の中でも、実は群を抜いて食欲旺盛なノエルくんが、恐る恐る訊いてくる。


「村長……その、尻尾だけでも、食べさせてもらうとか、無理かな……?」

「(やっぱりわらわを食うつもりじゃあああああああああっ!?)」


 僕はノエルくんを窘めた。


「ダメに決まってるでしょ? 尻尾は一本しかないんだから。……あれ? でも、トカゲみたいにまた生えてくるかも……?」

「わ、わらわの尻尾は一度失ったら、二度と生えてはこぬのじゃあああああっ!」


 生えないらしい。

 まぁエリクサーを使えば、また生やすことはできるかもしれないけど。


「(こやつらまさか、わらわを捕えて、永久に尻尾を食らい続けるつもりじゃったのか!? なんと恐ろしい連中なのじゃ!? やはりなんとかして逃げねば……っ!)」


 そうこうしているうちに、眼下に村が見えてきた。


「ドーラ、あれだよ。あれが僕たちの村」

「む、村……?」


 村を指し示すと、ドーラが唖然とする。


「わらわには、都市のようにしか見えぬのじゃが……」

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