第270話 村に遊びに来てよ

「せめて痛くない殺し方をしてあげるわね」

『嫌じゃっ!? わらわは食われとうないっ!』


 命乞いしてくるドラゴンだけど、みんな変わらず食べる気満々のようだ。

 と、そのとき。


「む? 待て。何か変だぞ?」

「ドラゴンが……縮んでいる?」

「いやいや、そんなはずが……って、確かに小さくなっている!?」


 突然ドラゴンの巨体が小さくなり始めたのだ。

 最初は錯覚かと思ったけれど、そうじゃない。


 先ほどまで公園の間に挟まるようなサイズだったのに、見る見るうちに隙間が広がっていく。

 まさか小さくなって逃げるつもりかと思っていると、やがてドラゴンは人間サイズどころか、さらに縮んでしまって、


「この通りじゃ! どうかわらわを見逃しとくれええええええっ!」


 気づくとそこにいたのは、涙目で五体投地する人間の幼女だった。


「「「え?」」」


 みんなが唖然とするのも無理はない。

 先ほどまで巨大なドラゴンだったのが、十歳かそこらの人間の幼女へと変貌してしまったのである。

 たぶん僕よりも小さい。


「あらぁん! すっごく可愛いわぁ♡」

「これは……人化か」

「フィリアさん、知ってるの?」

「うむ。高位の魔物の中には、人の姿に化ける特殊な魔法を使える者もいるという」


 頭に角が生えていることとお尻の尻尾を除けば、その正体がドラゴンとは誰も思わないだろう。


「わらわはお主ら人間を〝りすぺくと〟しておるのじゃ! この人の姿もその表れに他ならぬ! どうかわらわを食べないでおくれ? の? の?」


 潤んだ瞳で訴えてくるドラゴン幼女。


「ま、まぁ、ああ言ってることだしさ」


 幾ら元がドラゴンでも、この姿で嘆願されてしまっては、さすがにもう食材としては見れないだろう。

 ……見れないよね?


「可愛い幼女を食べちゃう趣味はないわぁん」

「ゴリちゃんが言うと、なんか違う意味に聞こえるんだけど……」

「仕方ないわね。今日のところは見逃してあげるわ」

「おおっ、嬉しいのじゃ~~っ!」


 ドラゴン幼女は飛び上がって喜ぶ。

 その様子は無邪気な子供にしか見えない。


「(……ほんの暇潰しで人化を習得しておいてよかったのう。人間をりすぺくと? そんなものあるわけないじゃろ。くくく、それにしても人間はチョロいのう。わらわがちょっと演じれば、ころっと騙されおったわい)」


 あれ、でもなんか今、一瞬悪い顔をしたような?

 気のせいかな?


「ええと、僕はルーク。一応、この集団の代表ってことになるのかな?」

「え? お主のような小さいのが?」

「……うぅ、どうせ僕は小さいよ」

「い、いやいや、わらわから見れば、人間などどんぐりの背比べじゃ! 気にすることはない!」


 慌ててフォローされるけど、あんまりフォローになっていない。


「……お主らを襲ってしまって悪かったのじゃ(こやつが代表か。くくく、一番チョロそうなやつで助かったわい)」

「僕たちもごめんね。勝手に縄張りに入ったりして。この辺り、君の住処だったんだよね?」

「うむ、確かにわらわの巣はこの近くじゃ。主にワイバーンを餌にしておっての、それをお主らが獲っておったから、つい攻撃してしまったのじゃ」

「そうだったんだ。じゃあ、あんまりワイバーンは狩らない方がいいのかな?」

「別に獲り過ぎさえしなければ構わぬのじゃ。あとは、わらわを食おうとはしないと約束してくれれば……(もっとこやつの情に訴えておくとしよう、くくく)」


 上目遣いで懇願してくるドラゴン幼女に、僕は約束する。


「あはは、もう食べようなんてしないよ」

「それはありがたいのじゃ!(くく、やはりチョロいのう。じゃが気持ちが変わらぬうちに、とっとと退散させてもらうとしようか)。……では、わらわは巣に戻るとするのじゃ」

「あ、ちょっと待って」


 踵を返そうとしたドラゴン幼女を呼び止める。


「せっかくだから、今から村に遊びに来てよ」

「ほえ?」


 お詫びも兼ねて、ワイバーン料理でも振舞ってあげよう。

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