第376話 ご名答ですのよ
「うむ。娼館で即指名するレベルの上玉であるな」
「そういうこと聞いてるんじゃないんだけど?」
僕が睨むと、ガイさんは少し合わせて、
「残念ながらアンデッドに相違ない」
何が残念なのだろうかと問い詰めたくなったけれど、その前にアンデッドらしきその女性が口を開いた。
「あらあら、ネズミが入り込んでいるとは思っていたけれど、まさかこのあたくしのところまで辿り着くなんて。なかなかやるではありませんの」
この状況にもかかわらず、不敵で妖艶な笑みを浮かべている。
見た目はかなりの美女だが、その肌はどこか青白く、生気を感じられない。
「しかもこの気配。明らかに並のアンデッドではない。恐らくはアンデッドの王とも言われるリッチであろう」
「うふふ、ご名答ですのよ」
ガイさんの指摘に、その女性――リッチは頷いて、
「ところであなた、僧侶にしては良い身体してますわねぇ? あたくし、好きですのよ、筋肉質の男性」
「ほう、ならばこの場で見せて進ぜよう。その代わりと言っては何だが、ぜひ貴殿の身体の方も」
「いい加減にしなさいこのエロ坊主!」
ハゼナさんが杖でガイさんの頭を思い切り叩いた。
「うふふ、そちらのお嬢さんも勝ち気でとっても良いですわ。それに他の方々も……ああ、素晴らしいですの! こんなにたくさん、実力者たちが集まってくださるなんて! ぜひあたくしの――」
そこで突然、リッチが椅子から立ち上がると、その全身から猛烈な魔力が膨れ上がった。
「――コレクションに加えて差し上げますのよっ!」
「「「っ!?」」」
リッチが叫んだ直後、部屋のあちこちに無数の魔法陣が出現。
そして次々と姿を現したのは、明らかに上級アンデッドと思われる魔物たちだった。
「囲まれたわ!」
「四、五、六……全部で六体かっ!」
「しかもただのアンデッドではなさそうだ!」
騎士も馬も血のように赤い鎧に身を包んだ、首なしの騎士デュラハン。
巨大な鎌を手に、宙に浮遊しながらこちらを睥睨する死神の魔物グリムリーパー。
全身が腐乱し、悪臭を放つ三つ首のドラゴン――ヒュドラゾンビ。
身体中が包帯に覆われた巨漢の魔物トロルのアンデッド、トロルマミー。
生前は名のある戦士だったのだろう、明らかに一級品と思われる装備で構成されたリビングアーマー。
そして先ほど倒した巨大スケルトンの強化版と思われる、大剣を持つ十本の腕と、盾を構える二本の腕という、計十二本の腕を持つスケルトン。
さらに僕たちが入ってきた扉が、音を立てて閉まった。
逃げ道を塞がれてしまったらしい。
……まぁ、逃げようと思えばいくらでも逃げられるけど。
「うふふ、できるだけ傷はつけないように殺して差し上げますわ。綺麗な身体のままで、しっかり観賞したいですもの」
六体の上級アンデッドたちが襲い掛かってくる。
「う、うぅ……拙者は、一体何をしていたでござる……?」
「あ、最悪なタイミングでアカネさんが目を覚ましちゃった」
「へ? んぎゃあああああああああああっ!?」
あ~あ、また気絶した……。
何の役にも立たないアカネさんを余所に、みんな一斉に上級アンデッドに立ち向かっていった。
デュラハンにはセレンとセリウスくんの姉弟に、フィリアさんが。
グリムリーパーにはバルラットさんやベルンさんたち狩猟チームが。
ヒュドラゾンビにはアレクさんの冒険者パーティが。
トロルマミーにはゴリちゃんが。
リビングアーマーにはマリベル女王とカシム、それにガンザスさんが。
そしてスケルトンにはノエルくんとゴアテさんに、元盗賊のドリアルやドワーフの戦士バンバさんが。
ちなみに僕はベガレンさんたちのパーティと一緒に、後方でアカネさんのお守りだ。
万一のときは村人強化を使うなどして、みんなをサポートするつもりだった。
「……意外と苦戦してる」
こちらは最強レベルの戦力が集まっているというのに、六体の上級アンデッド相手に押され気味だ。
その最大の理由は、やはりアンデッド特有の耐久力の高さに加え、厄介な自動修復力だろう。
「くっ、こいつすぐに回復してしまうんだけど!」
「こっちもよぉん! これだからアンデッドは嫌なのよねぇ」
セレンやゴリちゃんも手を焼いている。
「うーん、やっぱりアレを使うしかないかな?」
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