第155話 自重が必要かもしれない
東の魔境に出向いていた狩猟班が帰ってきた。
「ルーク、鶏肉をゲットしたわ」
「と、鶏肉……?」
嬉しそうに言ってくるセレンだけれど、僕は唖然とするしかない。
狩猟班が運んできたその生き物、確かに頭には赤いトサカがあって鶏みたいだけれど、尾が蛇みたいになっているし、何より大きさが尋常じゃない。
たぶん全長四メートルはあるだろう。
うちの家畜小屋の鶏たちも巨大だけれど、その二倍や三倍どころじゃない。
「もしかしてこれ、コカトリス?」
「そうとも言うわ」
「こ、こんなに大きいんだ……」
しかもコカトリスという魔物は、石化攻撃をしてくるそうだ。
さすがの狩猟班も討伐に苦戦したのだろうと思いきや、
「対処の仕方が分かってからは楽だったわ。ひとまず十匹くらい捕まえてきたわよ」
「……参加したの、二十人とかだったよね?」
巨体がずらりと村の広場に並べられた様は、なかなか壮観だった。
たった二十人でこれだけの数を……このまま行くと、そのうちドラゴンとか普通に狩ってきそうで怖い。
「セリウス殿との連携が上手くいった。どうやら私たちは相性がいいようだ」
フィリアさんの言葉に顔を赤くしているセリウス君へ、僕はこっそり耳打ちする。
「もう告白しちゃいなよ」
「こ、ここ、こくっ!? ななな、何を言っているんだ!? ぼぼぼ、ぼくは、べべべ、別にっ、フィリアさんのことなんてっ……」
「あれ? 僕、フィリアさんにとは一言も言ってないよね?」
「っ!? ちちち、ちがっ……違うから……っ!」
「……もう丸分かりなんだから、そんなに必死になって否定しなくても」
気づいていないのはフィリアさん当人くらいだ。
鈍感というか、あまり色恋ごとに興味なさそうな人だからなぁ……。
でも、セリウス君が熱意をもってぶつかれば、案外あっさりOKしてくれそうだけどね。
「ふむ、そうか、それでは付き合おうではないか」なんて言いそう。
「まぁそれはともかく。せっかくだし、今日は狩りの成功を祝って鶏肉祭りにしよう!」
「「「おおおおおおおおおおっ!」」」
あれから村に料理人が増えた。
その中には料理系のギフト持ちも少なくなく、食材の質も相まって、村のグルメレベルが凄まじいことになっている。
最近では、わざわざ村の料理を食べるためだけにやってくる観光客もいるほどだ。
狩猟班が持ち帰ってきた新鮮なコカトリスを、そんな村の腕利きの料理人たちが調理してくれることになった。
ちなみに石化の成分を分泌する器官が喉の近くにあるらしく、それを取り除きさえすれば問題なく食せるそうだ。
広場に設けられたのは、二十を超える屋台。
そこで各料理人たちが独自の鶏肉料理を提供し、村人たちは各々好きな屋台で好きな料理を注文できる。
簡単に言うとグルメイベントとか、フードコートみたいな感じ。
屋台前に並ぶと混み合っちゃうので、あらかじめ注文を済ませおいて、料理ができたら取りに行くというシステムにしてある。
村が主催のイベントなので、今日に限っては基本的に支払いが不要だ。
だからと言って食べ切れない量を注文されると困るので、あらかじめ食券を配っておいて、その範囲内ならタダ、それ以上を食べたいなら有料、というふうにした。
「どこの屋台もめちゃくちゃ美味そうなんだが……っ!」
「くっ……すべて食べたいが、さすがにニ十店舗は……」
「はははっ! 『大食い』のギフトを持つ俺には夢のようなイベントだ! 初めてこのギフトが活きるときがきたぞ! ……え? 食券分を超えると有料? そんな……お金が……」
確かに美味しそうな料理ばかりだ。
……ていうか、多彩過ぎない?
焼き鳥くらいならこの世界でも珍しくないけれど、衣をつけて揚げたとり天や、中華風の油淋鶏、ケバブっぽい料理、それにアヒージョまで。
あっちの屋台はタンドリーチキンだし……えっ、親子丼やラーメンまである!?
たぶん、この世界にはないものばかりだよね?
もしかしてゼロから開発しちゃったとか?
「料理人たちにも自重が必要かもしれない……」
そして当然のごとく、どの料理も途轍もなく美味しかった。
「「「うめええええええええええええええええええっ!?」」」
こうして新たにコカトリスの肉料理が、村の名物に加わったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます