第295話 俺たちの大手柄だ
「ううむ、どうやら儂は少し疲れているようですな……」
「いや、ガンザス。幻覚ではないぞ。すぐには信じられないかもしれぬが、あたしは本当に空を飛んできたのだ」
それからマリベル女王は、僕たちのことを紹介してくれた。
「彼らがイビルハイエナに襲われていた我々を助けてくれたのだ。砂漠の外から来たと言い、この謎の力はギフトのものだという」
「ギフト? といえば、ほとんど伝説上のものでは……?」
どうやらこの砂漠の国々には、ギフトを保有する者がいないらしい。
そもそも祝福を他者に与えることができる、『神託』のギフト持ち自体がいないせいだろう。
うちでは偶然ミリアが『神託』のギフトを持っていたけれど、本来は非常に希少なギフトなので、ある程度の人口規模がなければ出現しないと考えていいと思う。
獣人の集落でも、ギフトを持っている人はいなかったし。
ちなみに潜在的な『神託』のギフト持ちであれば、恐らくミリアのように自力でこのギフトを得ることが可能なのだろう。
そうして最初の一人が『神託』を授かれば、ギフト持ちを増やしていくことができるというわけだ。
「それはそうと、ガンザス。ここまで逃れてきた者たちはどれくらいいる?」
「……今のところ、五十人少々といったところですな」
マリベル女王に問われて、ガンザスさんは言い辛そうに告げた。
「五十人か……」
「無論、陛下のように、まだこれから辿り着く者も多いはず! なにせ我が国が誇る精鋭たちでございますからな! 砂漠の行軍にだって慣れておりますゆえ!」
ガンザスさんはそう主張しているけれど、現実的には芳しい状況ではなさそうだ。
ロクな準備もできないまま、この砂漠を横断するというのは、砂漠に慣れた戦士たちでも容易なことではないのだろう。
国を奪還するためには、相応の戦力が必要だ。
敵がどれだけの規模か知らないけれど、たった五十人では難しいと思う。
そんな彼らに追い打ちをかけるように、不穏な急報がもたらされる。
「て、敵襲……っ! 砂賊と思われる一団が、こっちに近づいてきている!」
「なんだと!? 馬鹿なっ! この場所が連中にバレたというのか……っ!?」
慌てて移動すると、確かに向こうから砂煙と共に迫ってくる一団があった。
大型のソリのようなものに乗り、それを何かに曳かせているみたいだ。
「あれはサンドリザードと呼ばれるトカゲの魔物だ。非常に狂暴だが、砂賊どもが飼い慣らしてこの砂漠での移動手段に使っているのだ」
砂地を走るのに適した身体の構造をしているのか、砂漠の上をすいすい進んでいる。
およそ十人が乗るソリを曳いているというのに、物ともしていない。
そうしたソリが全部で六台。
つまり六十人ほどの戦力が、こちらへ接近してきていた。
「ヒャッハ~~ッ!! やっぱり見つけたぜぇっ!」
「見ろよ! あそこに女王もいるぜ!」
「てことは、あの女を拉致って帰れば俺たちの大手柄だっ! ぎゃはははっ!」
口々に奇声を上げている。
あんまり頭が良くはなさそうだ。
「くっ! 応戦するぞ! 幸い数にそれほど差はない! 我らエンバラ兵の力を、逆賊どもに見せつけてやれ!」
マリベル女王が声を張り上げると、兵士たちが「「「おおおおっ!」」」と力強くそれに答えた。
砂壁の上で、迫りくる一団を待ち構える。
一方、砂賊たちは速度を落とすことなく、それどころか、
「ヒャッハ~~ッ! そんな脆そうな壁で防げるとでも思ってんのかっ!」
「サンドリザードども! このまま突っ込んで、ぶち壊しちまえ!」
「「「シャアアアアアッ!!」」」
砂賊たちが鞭で打つと、サンドリザードたちの勢いが増した。
全長五メートルを超す巨体が、砂で作られた防壁へと正面から突進してくる。
「「「なっ!?」」」
「か、躱せぇぇぇ……っ!」
恐らくあの巨体に激突されては、この砂の防壁など一溜りもないだろう。
慌ててその場から退避しようとする女王の兵たちだったけれど、間に合わない。
「城壁作成」
僕はその前に砂の防壁を、石でできた強固な城壁へと変えていた。
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