第95話 おっしゃる通り量産品ですよ
そうして我々は荒野の村へと辿り着く。
……予想していた通り、以前から大きく発展した村がそこにはあった。
前回はなかったはずの沢山の商店が軒を連ね、大勢の人々で賑わっていたのだ。
北郡最大の都市リーゼンが人口一万人に迫る街だが、それに勝るとも劣らない人の数だ。
半年前はまだ千人かそこらだったはず。
そこから数倍、下手をすれば十倍近く増えているようだ。
本来ならそこまで急激に人が増えたら、とてもではないが住む場所や宿泊施設が足りなくなるものだ。
しかしルーク様のギフトの力だろう、街に浮浪者らしき者たちの姿は一切ない。
それを証明するように、以前の数倍もの高層住居がずらりと並んでいる。
もはや同じ村とは思えない。
というか、そもそも村とは思えない。
「ほ、本当にこれがあの村ですかっ!? たった半年ですよ!? それも冬を挟んで!」
私は覚悟していたからよかったが、バザラは村の変化に驚きっぱなしだ。
さらに彼はあるものを発見して目を剥いた。
「こ、この剣は……っ!? いや、剣だけではない! この兜も防具も……信じられないほどの高品質だ!」
武器屋に陳列されていた武具だ。
「そんなに凄いのか?」
「王都にだって滅多に出回らないレベルですよ! それこそ、貴族が大金をかけてオーダーメイドするような……。それがこんなところに……それも量産品のような扱いで陳列されているなんて!」
バザラの声が聞こえたのか、店主がやってきた。
「ははは、それはおっしゃる通り量産品ですよ。お値段も相応のものになっています」
「量産品だと!? これで!?」
「この村には凄腕の鍛冶師が何人もいますんでね」
凄腕の……もしかして、ギフト持ちだろうか?
この村ならあり得る話だ。
さらに値段を聞いて、バザラはひっくり返りそうになっている。
今にも財布を取り出し、購入しそうな勢いだ。
と、そこへやたらと横幅が広い髭もじゃの男がやってきた。
「ああ、どうもドランさん。納品ですか? いつもありがとうございます」
「なっ……ドワーフ!?」
「ええ、ドワーフです。この店の武具は彼らに作ってもらっているんですよ」
「この村にはドワーフがいるのか……?」
「エルフもいますよ?」
「エルフまで!?」
どうやら現在、エルフとドワーフが村に定住しているらしい。
一体何がどうなってこの半年の間に、異種族がこの村に暮らすことになったのか分からないが、本当なら前代未聞である。
そもそもエルフとドワーフは仲が悪いはずなのだが……。
「ちなみに道具屋にいけば、エルフのポーションを購入できますよ」
「ポーション!? この村ではポーションが売っているのか!?」
とんでもない話の連続に、私も頭がくらくらしてきてしまう。
さらに行くと、肉が焼ける非常に美味しそうな匂いが漂ってきた。
あまり寄り道をしてはいけないと思いつつ、つい近づいてしまう。
「ミノタウロス肉の串焼きだよ~っ!」
「ミノタウロス!?」
店主の言葉に私は耳を疑う。
何故ならミノタウロスというのは、一部のダンジョンにしか棲息していないとされる、牛頭人身の魔物だからだ。
「もちろん村のダンジョン産さ! 毎日のように入ってくるからね! 他じゃこんな値段じゃ食べられないよ!」
「ダンジョン!? この村にはダンジョンがあるのか!?」
「何だ、まだ知らないのかい。この村の村長様がダンジョンマスターと仲良くなって、幾らでもミノタウロスが獲れるようにしてくれたのさ」
ダンジョンマスターと仲良く……。
私の知る限り、ダンジョンマスターと友好関係を築けるなんて、レア中のレアケースだ。
ゴオオオオオオッ!!
そのとき凄まじい音が響き渡った。
一体何事かと思って視線をやると、一瞬、天高く舞い上がる炎柱が見えた。
炎が上がったのは、楕円形の巨大な建物。
これも以前はなかったはずのものだ。
「あ、あの建物は……?」
私は思わず店主の親父に訊ねる。
「あれかい? あれは訓練場さ。この村の戦士や衛兵、それから冒険者たちが訓練に使っているんだ。今のは恐らく火魔法だねぇ。ハゼナっていう、魔法使いの女の子が使ったものだと思うよ。彼女、うちの串焼きが好きでよく買いにきてくるんだ」
あのレベルの魔法を使えるとなると、相当な凄腕だろう。
どうやらこの村には、一流の冒険者たちが集まってきているらしい。
「は、はは……。どうやらルーク様は、私の予想を遥かに超えていかれているようだ……」
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