第21話 難民を狙う盗賊は珍しくありません

「うーん、おかしい……」


 僕は首を捻っていた。

 最近、どうも村人たちの様子が変なのだ。


 どう変かと言うと、明らかにやる気が違う。

 確かに今までだって、恩義を感じているようで、村に貢献しようと頑張ってくれてはいたけれど……。


 実際それは、村人鑑定で分かる愛村心にも現れていた。

 今まで「中」や「高」が多かったのに、ここ最近になって「超」の村人が急増したのである。


 何かきっかけでもあったかな?

 と考えてみるけれど、正直あまり思い当たる節はない。


 強いて言えば、何人かギフトを授かったことくらいだろう。

 でもその人たちだけならともかく、そうでない村人まで愛村心が高まっているのはおかしい。


 そう言えば、ミリアが教会で礼拝を始めたんだっけ。

 村の人たちを順番に集めて、何やら熱狂的な説教をしてるっぽいけど……。

 最初はギフト持ちだけだったけれど、段々とそれ以外の村人も参加するようになっていた。


「……でも、なぜか僕は呼ばれてないんだよね」

「ミリアの礼拝のこと? それなら私もよ」

「セレンも? 何やってるんだろうね……」


 まぁ教会だし、ミリアだし、よからぬことをやっているはずもないので、放っておいても構わないだろう。

 それが原因かは分からないけど、村人の愛村心が高まるのは良いことだしね。


「そんなことより、狩猟チームの成長が著しいわ。みんなすごくやる気だからか、どんどん強くなっていってる。そろそろオークあたりを狩るのもよさそうね」


 北に広がる魔境の森には、豚の魔物オークも棲息しているらしい。

 オーク肉はかなり美味しいらしくて、しかも希少なので高値で売買されている。


 ちなみにセレン率いる狩猟チームは、現在十名ほどで構成されていた。

 その大半がギフト持ちで、『剣技』のバルラットさんにペルンさん、『槍技』の少年ランドくん、それから『盾聖技』のノエルくんにも参加してもらっている。


 こうした戦闘要員の他に、『巨人の腕力』『獣の嗅覚』『危険感知』といった、荷運びや探索に適したギフト持ちもいた。

 最近は一度の狩りで結構な量の獲物が手に入るので、運搬するのに『巨人の腕力』のギフトがかなり役に立っているという。


「村長! どうやらまた難民のようです!」


 と、そこへ新たな難民がやってきたとの報告を受ける。

 出迎えてみると、今回は十人ちょっとの小さな集団だった。


 ただ、今までと違ってとても怯えている。


「僕はこの村の村長をしているルークです。ここにいる人の大半が、皆さんのような難民ですので安心してください」

「「「……」」」


 ……あれ?

 最初はこんなところにある村を怖れているのかとも思ったけれど、どうやらそうではなさそうだ。


「何かあったのですか?」

「じ、実は……」


 よほど怖い目に遭ったのか、彼らは恐る恐る語ってくれた。


 どうやら彼らは元々、百人近い集団だったそうだ。

 だけど不運にも盗賊団に襲われてしまったのだという。


「抵抗した何人かは殺され、大半はどこかに連れて行かれました……。我々は運よく逃げ出すことができ……どうにかここまで辿り着いたのです……」

「そんなことが……」


 ただでさえ、村を捨てざるを得ない悲劇を味わったというのに、そこに追い打ちをかけるような盗賊の襲来だ。

 彼らがここまで憔悴しているのも無理のないことだろう。


「難民を狙う盗賊は珍しくありません。奴隷にして売り払うのが目的でしょう」


 ミリアが言うように、むしろ今までこの村に何事もなく辿り着けた人たちが、運がよかったのかもしれない。

 下手したら彼らもその盗賊団に遭遇していたのだ。


 それが分かっているからか、誰もが神妙な顔で話を聞いている。


「酷い……」

「酷い話ね。ただ、私たちも他人ごとじゃないかもしれないわ」

「そうだね……この村はほとんどが難民だし……」

「そういう意味じゃなくて」

「え?」


 僕がセレンの言葉の意味が理解できずにいると、難民たちが頭を下げてきた。


「ほ、本当に申し訳ありません……っ! その盗賊団が、もしかしたら我々を追ってここまでやってくるかもしれないのです……っ!」

「ええっ?」

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