第20話 救世主なのです

 新たに十人が授かったギフト。

 すでに紹介した『剣技』の他に、筋力が上昇する『巨人の腕力』や、動物並みの嗅覚を得る『獣の嗅覚』、危険などを察知しやすくなる『危険感知』、それから毒が効きにくくなる『毒耐性』などといったものがあった。


 中でも特筆すべきなのが、『盾聖技』だ。

 これは『盾技』の上位ギフトで、『剣聖技』に匹敵する非常に希少なものだった。


 盾なので攻撃はできないみたいだけど、高い防御力を持ち、しかも味方が受けたダメージを肩代わりするなどの能力もあるという。


 このギフトを授かったのは、まだ十三歳の少年、ノエルだ。

 僕とは一つしか変わらない。


 だけどすでに大柄なバルラットさんと変わらないほどの体格で、まさしくギフトに相応しい人物と言えるかもしれない。

 あまり喋るのが得意ではないけれど、朴訥で心優しい少年だった。


 どうやら僕に恩義を感じているみたいで、


「村長……おれ、このギフトで、村長を護る……」


 と言ってくれた。


「うん、ありがとう、ノエル」


 今はまだ木で作った盾しかない。

 彼のためにも、いずれちゃんとした盾を用意してあげたいところだ。



    ◇ ◇ ◇



「本日は皆さまへ、重大な神託を授けたく、お集まりいただきました」


 礼拝堂に響く凛とした声に、集まった村人たちが微かに騒めく。


 その全員がギフトを授かった者たちだ。

 それゆえ、祭壇の前で厳かに語る彼女――ミリアには、強い崇敬と感謝、そして信頼の念を抱いている。


「それは外でもありません。わたくしたちの村長、ルーク様のことです」

「村長の……?」

「一体、どんな神託が……」


 真剣な表情で、ミリアの言葉に耳を傾ける村人たち。

 そんな彼らを満足そうに見渡しながら、ミリアは声高らかに告げた。


「ルーク様こそ、この戦乱の世を救うため、神々が遣わした救世主なのです!」


 告げられた内容のスケールの大きさに、村人たちは一瞬、何を言われたのか分からずに硬直する。

 しかしミリアは畳みかけるように言った。


「そう、ルーク様は我々の救世主なのです。皆さんがご覧になった通り、途轍もないギフトを神々から与えられておられます。ですが、まだまだルーク様のお力はこんなものではありません。これからさらなる力をお見せになられることでしょう」


 ミリアはルークから聞いていた。

『村づくり』のギフトにはレベルというものがあり、それが上がるにつれて作れる施設や強力なスキルが増えていくということを。


 村人たちは互いに顔を見合わせる。


「た、確かに、村長は只者じゃないと思っていたが……」

「まさか、そんなお方だったなんて……」

「いや、村長ならおかしなことじゃない。俺たち、とんでもない方の元に来てしまったようだな……」


 驚いてはいるが、ミリアの言葉を疑っている者はいない。

 なにせミリアは『神託』のギフトを持つ神官なのだ。


 ゆえに、誰一人として知る由もなかった。


(生憎とそんな神託は受けていません。……ですが、神託などなくとも、わたくしには分かります。ルーク様こそ、この時代を憂いた神々がこの地上に送ってくださった、神の御使いであると!)


 ――まさかそれが、ただのミリアの個人的な感情から来るものであることなど。


「皆さん、ともにルーク様を称えましょう! そしてルーク様のために、身を粉にして働き、この村を発展させていくのです!」

「「「おおおおおおっ!」」」


 こうして当人の与り知らぬうちに、ルーク村に新たな宗教が誕生したのだった。



    ◇ ◇ ◇



「……?」


 あれ? おかしいな?

 なんか今、背筋がぞくってしたような……。


 もしかしたら風邪を引いたのかもしれない。

 念のため今日は早く休むとしよう。


 そんなことを考えていると、教会の方から「おおおっ!」という歓声のようなものが聞こえてきた。


「そう言えば、ミリアがギフト持ちを集めて礼拝をしているんだったっけ……? 確か、ギフトを授かったことを改めて感謝するために。今まで全然そんな感じじゃなかったのに、『神託』のギフトを授かっただけで、すっかり神官になっちゃったみたいだね」


 でも、このすごい盛り上がりようは何なんだろう?


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