第22話 これで失態はちゃら
その日の夕刻。
僕はある異変を感じ取った。
「これは……?」
〈スキル「侵入者感知」の効果です。どうやら何者かがこの村の中に侵入してきたようです〉
レベル4になった際に手に入ったスキル。
今まで一度も使う機会がなかったそれが、僕に村への侵入者を教えてくれているらしい。
「人数まで分かるみたい。……でも、一人だけ? 昼に話していた盗賊団じゃないのかな?」
今日この村にやってきた難民たちの話から、盗賊団に警戒していたのだ。
ただ、今のところ侵入者は一人しかいないようだった。
「こんなところに村があるんだから、向こうも警戒しているんでしょ」
セレンが言う。
つまり、この一人は哨戒だろうか?
「どこにいるか分かる?」
「うん。ちょうど畑の方から」
僕はセレンと一緒に、畑へと向かった。
すでに太陽が沈みかけているので、あまり視界はよくない上に、畑には背の高い作物も多くて、そこに身を隠されるとなかなか見つけにくい。
それでも僕の「侵入者感知」は、はっきりと侵入者の位置を教えてくれていた。
「ちょうどあの辺りかな」
「了解。少し作物をダメにしちゃうかもだけど、許してね」
そう言って、セレンは魔法を発動した。
「フリージング!」
「~~っ!?」
直後、まさしく侵入者がいると思われる一帯が、一瞬にして凍り付いた。
「な、何だ、これは……か、身体が……」
「侵入者はこいつね」
「っ!」
そこにいたのは、身体が凍り付いて身動きが取れなくなった男だった。
◇ ◇ ◇
「こいつはラッキーだぜ」
俺は思わず呟いてしまった。
難民を拉致し、奴隷商へと売り払う。
それが今、俺たち盗賊団が金稼ぎのためにやっている仕事だ。
ちょうど大きな戦があって、戦場の近くの村から逃げ出した奴らが、あちこちうろついているのだ。
まさに稼ぎ時だと、休む間もなく俺たちはそうした連中を捕まえているのである。
だがせっかく捕らえ、これから奴隷商へと売り払っちまおうってときに、俺のミスで何人かに逃げられちまった。
まぁ、どうせまだ沢山いるし、それくらい大丈夫だろうと俺は思ってたんだが、不運なことにそれを知った親分にこっぴどく叱られちまった。
しかも、連れて帰るまで戻ってくるんじゃねぇとまで言われちまったんだ。
俺は仕方なく逃げた連中を追って、こんな荒野までやってきたってわけ。
にしても、一人でどうやって十人も連れ帰るってんだ?
まぁ、価値の低い野郎やブスな女は殺しちまえばいいか。
上玉だけ連れて帰るとしよう。
そんなことを考えていた俺だったが、不思議なものを発見した。
なんと不毛の荒野に、村らしきものがあったんだ。
どうやら俺が追ってた奴らは、あの村の中に逃げ込んじまったらしい。
最初はなんて踏んだり蹴ったりだと悪態を吐いた俺だが、忍び込んで村の様子を知り、逆に自分の幸運に驚くこととなった。
せいぜい百五十人くらいの小さな村なのだが、その大半が女子供だったのだ。
若い男はほとんどいない。
俺は早速そのことを親分に報告することにした。
実はうちの団には『念話』っつー便利なギフト持ちがいて、頭ん中でこいつに話しかければ、こっちの考えが伝わるんだ。
『へい、サテンの兄貴。今、いいっすか?』
『何だ、バールか。てめぇ、ちゃんと見つけたんだろうな?』
『もちろんっす。けど、それだけじゃねぇっすよ。なんと、荒野で村を見つけちまったんす』
『ああ? てめぇ、なにおかしなこと言ってんだよ? あんな荒野に村なんかあるわけねぇだろ』
『それが、あるんすよ! しかも調べてみたら中にいるのは大半が女っす。たぶん、難民が作った村だと思うんすけど、あれなら簡単に制圧できるっす』
『……その話、本当だろうな?』
『ほんとにほんっとっす!』
『よし、分かった。親分に話してみる。本当なら大手柄だぜ』
『ありがとうっす!』
念話を終えて、俺は思わず拳を握りしめる。
くくく、これで失態はちゃら。
いや、それどころじゃねぇな。
下手すりゃ昇進って話も……。
と、そのときだった。
「~~っ!?」
畑の作物の間に身を隠して村の様子を観察してた俺は、突然、猛烈な寒気に襲われたんだ。
見る見るうちに身体が凍り付いていく。
そうして身動きが取れなくなった俺の前に現れたのは、十歳かそこらのガキと、青い髪の女だった。
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