第23話 あたしは気が短いんだよ

 気づいたら俺は牢屋の中にいた。


 ……何があった?

 俺は確か、逃がしちまった難民連中を追って……。


「あっ」


 そこで記憶が蘇ってくる。

 そうだ、俺は荒野で村を発見し、そして村の中に侵入して、そこが女と子供ばかりのまさに格好の獲物であることを兄貴に報告したんだった。


 だがその直後、身体が凍り付いて、動けなくなって……。


『おい、バール! 聞こえてねぇのか! バール!』

『っ? あ、兄貴……』

『ちっ、聞こえてんならとっとと返事しやがれ』

『す、すいやせんっ』


 サテン兄貴からの念話に気づいて、俺は慌てて謝罪する。


『今、てめぇが言うその村に向かってる』

『ほ、ほんとっすか?』

『ああ。それより、本当に間違いねぇんだろうな?』

『もちろんっす!』


 咄嗟にそう返すが、俺はめちゃくちゃ焦っていた。


 女子供ばかりの村だというのに、俺はこんなに簡単に捕まって牢屋らしきところに入れられているのだ。

 もしかしたら普通の村じゃないかもしれない。


 念話を使い、今の俺の状況を伝えるか?

 いや、そんなことをしたら最後、今度こそ親分が激怒して、俺は団から追い出されちまう。


 下手したらこのまま助けにすら来てもらえないかもしれない。

 俺は嘘を貫くことにした。


『マジで女子供ばかりのちょろい村っす! 高く売れそうな上玉もいるっすよ!』


 一応、完全な嘘ではない。

 気を失う前に見た青い髪の女なんかは、恐らく相当な値段で売れるだろう。


 そんなことを考えていたら、鉄格子の向こう側に、まさにその女が現れた。


「起きたみたいね」



    ◇ ◇ ◇



「起きたみたいね」


 セレンと一緒に捕まえた侵入者の男は、ひとまず牢屋を作成し、その中に入れておいた。

 魔法で全身が凍り、気を失ってしまっていたけれど、どうやら目が覚めたようだ。


 年齢は二十代後半くらいか。

 細身で俊敏そうな男で、いかにも盗賊といった格好をしている。


 隠し持っていたナイフなんかは回収させてもらった。

 そして念のため、壁と繋がっている手枷や足枷を装着してある。


「あなた何者?」

「……」

「どうせ盗賊でしょ?」

「……」


 セレンの問いに、男はだんまりを決め込んでいる。


「何で一人だけなの? 仲間はどこにいるの? どれぐらいの規模?」

「……」


 どうやら何も答える気はないようだ。


 もしかしたら近いうちに仲間の盗賊たちが村に来るかもしれない。

 できる限り情報を引き出し、備えておきたいんだけれど。


「いっひっひっ、ここはあたしに任せてもらおうかねぇ」

「あ、おばあちゃん」


 不思議な笑い方とともに現れたのは、今この村で最年長の女性だった。

 適正職業が拷問官だったおばあちゃんである。


 おばあちゃんは拘束された男に近づいていく。


「おい、あんた。今からあたしの質問に答えな」

「……」

「聞いてんのかい?」

「……」

「聞いてんのかって聞いてんだよっ、このクソガキがっ!」


 突然、おばあちゃんが大声で叫んだかと思うと、男の股間を蹴り上げた。


「~~~~~~っ!?」


 悶絶する男を見降ろして、おばあちゃんは嗜虐的に笑う。


「いっひっひ、痛いだろう? だがこの程度じゃすまないよ? なにせこれからそのタマ、あたしが優しく握り潰してあげるからねぇ」

「ひっ……」


 おばあちゃん……怖い……。

 しかもめちゃくちゃイキイキしているんだけど。


「そ、それだけはっ……それだけは勘弁してくれぇ……っ!」

「だったらとっとと吐くんだねぇ! あたしは気が短いんだよぉっ!」


 男の股間を鷲掴みにして怒鳴るおばあちゃん。


「わ、分かった! 話すから! 話すからあああああっ!」


 そうして顔を真っ青にしながら、男は洗いざらい教えてくれた。


 やはりこの男は盗賊団の一員で、一度は捕まえるも逃がしてしまった難民たちを追いかけてきたという。

 一人だけなのは、逃がしてしまったのがこの男のミスで、その責任を取る形で命じられたからだそうだ。


 このままここに拘束しておけば、村のことは盗賊団に伝わらないのではと思ったけれど、どうやらそうはいかないらしい。

 というのも、すでに村の情報は報告済みで、一団がこちらに向かってきているところなのだという。


「ふん、『念話』のギフトかい。盗賊団のくせに大層なギフトを持っているねぇ」


 おばあちゃんが鼻を鳴らして吐き捨てる。


 こちらに向かっているのがどれくらいの人数か分からないけれど、盗賊団全体では六十人を軽く超すという。

 しかも暴力や略奪に長けた一団。

 これから僕たちはそれを迎え撃たなければならないようだった。

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