第24話 気が利くじゃねぇか
俺はサテン。
元は名家の生まれだったが、今は訳あって盗賊団の一員だ。
十二の時に与えられたギフト『念話』。
これは言葉を交わさずとも、相手と意思の疎通ができるという便利な能力だ。
だがこのギフトの副次的な能力として、俺は近くにいる他人の考えていることが頭に聞こえるようになってしまった。
それが気味悪がられ、家を追い出されたのがもう二十年も前のことだ。
それから十年ほど各地を転々とし、十年ぐらい前にドリアルの親分が率いるこの盗賊団に入った。
今では親分の右腕となり、団員たちから兄貴と呼ばれて慕われている。
俺はこの団のことを気に入っていた。
親分は怒らせると怖いが、俺のこのギフトの価値を理解し、用いてくれている。
何より親分は戦闘のギフト持ちで、強い。
こんな仕事をしていると、よく領兵なんかとやり合うことがあるのだが、そのすべてを返り討ちにしてこれたのは親分のお陰だ。
そんな俺は今、荒野へとやってきていた。
ここへ逃げ込んだ難民たちを追っていた団員から、念話を通じて村があるとの情報を得たからだ。
「兄貴、間違いないようです。確かにこの先に、村らしきものがありました」
「そうか。こんな荒野に村があるなど半信半疑だったが、バールの話は間違いではなかったようだな」
様子を見に行って戻ってきた団員からの報告に、俺はひとまず胸を撫でおろす。
どうやら無駄足にならずに済んだようだ。
『おい、バール。てめぇの言っていた通り、村を発見したぞ』
『へ、へい! 村の連中は完全に寝静まってるっす! やるなら今っすよ! あ、村の門はこっそり開けておいたっす! 簡単に入って来れるっすよ!』
『ふん、てめぇにしては気が利くじゃねぇか』
村の中にいるらしいバールと念話でやり取りして状況を確認すると、俺は親分にそれを伝えた。
「はっ、この程度の村、わざわざ夜襲するまでもなさそうだがな。朝まで待つのも面倒だ。とっとと終わらせちまうか」
そう言って鼻を鳴らした親分が、愛用の戦斧を手に村の方へと歩いていく。
身長は二メートルを超え、人間離れした体格の親分だ。
扱う戦斧も巨大で、普通の人間では持ち上げることすら困難なそれを、親分は片手で振り回してしまう。
俺たちは親分に続いた。
一部は捕まえた難民どもの監視のために残してきたので、全部で四十人ほど。
それでもこの程度の村を落とすには十分な戦力だろう。
やがて村の入り口らしき門が見えてくる。
そこまで念のため明かりを灯さず、月と星の明かりを頼りにここまで接近してきた俺たちだったが、ここで一斉に松明に火を灯した。
「野郎ども! オレ付いてこい! オラアアアアアッ!!」
先陣を切ったのは親分だ。
戦斧を振り回しながら、門へと突っ込んでいくと、木造とはいえ、なんとたったの一撃でそれを吹き飛ばしてしまった。
「「「おおおおおおおおおおっ!」」」
親分に続いて、一斉に村の中へと雪崩れ込んでいく。
しかしそのとき、奇妙なことが起こった。
突然、足元から地面の感触が消えたのである。
「「「……え?」」」
一瞬の浮遊感。
直後に身体が落下をはじめ、俺たちはパニックになる。
まさか、落とし穴が仕掛けられていたのか!?
だが幸いと言うべきか、俺たちが落ちたのは水の中だった。
「ぶはっ!? くそっ……土塀の中に、水堀が掘られていたのか……っ!?」
いきなりのことでかなり水を飲んでしまったが、俺はどうにか水面から顔を出し、叫ぶ。
それにしてもこの堀、意外と深い。
平均的な身長の俺でも足が届かないほどだ。
堀の向こう岸で、次々と炎が灯っていく。
いつの間にかそこには幾つもの人影があった。
村の連中、俺たちの接近を知った上で謀りやがったってのか……?
「舐めんじゃねぇぞ! こんな堀くらい泳ぎ切って――っ!?」
急激に水の温度が下がっていくのを感じて、俺は戦慄する。
「み、水が、凍って……」
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