第16話 あまりにも美味しくて

 とれたての野菜がめちゃくちゃ美味しかった。


「だ、大丈夫でしたか、村長?」

「すいません、あまりにも美味しくて、つい大声で叫んでしまいました」


 びっくりしているベルリットさんに僕は謝る。


「ベルリットさんも食べてみてくださいよ」

「で、では、お言葉に甘えて」


 そう言って、ベルリットさんがカブに齧りついた。

 次の瞬間、目を大きく見開いて、


「うめええええええええええええええっ!?」


 僕と完全に同じ反応だ。


「こ、これは……っ!? 確かにとれたてのカブは美味しいですが……これほどのものは初めてです……っ! むしゃむしゃ」


 ベルリットさんは興奮しているのか、喋りながらカブを食べ続けている。


 その後、せっかくなので、収穫を祝って盛大な宴会を行うことにした。

 とれたばかりの野菜、それにセレンを筆頭に結成された狩猟班が捕まえてきた野生の猪や鹿の肉も使って、女性たちが料理を作ってくれた。


 ちなみに60ポイントを使って、新しく屋外調理場を作った。

 大人数で調理ができるし、肉の解体にも使えるため、かなり効率がよくなった。


「えー、それでは、収穫と、それからこの村に新しい仲間が加わってくれたことに感謝して……乾杯!」

「「「乾杯!」」」


 僕が音頭を取って、皆が一斉に乾杯する。

 村にはまだお酒がないので井戸水だけれど。


「「「な、なんじゃこりゃあああああああああっ!?」」」

「「「う、うめええええええええええええええっ!?」」」


 そしてあちこちからそんな声が上がった。


「おいおいおい、こんな美味いもん、初めて食ったぞ!?」

「これ本当にうちのカミさんたちが作ったものなのか……っ!」

「……食材だ。特にこのとれたばかりの野菜が美味いんだ」


 みんな野菜の美味しさに驚いている。


 と、そのときだった。


「そ、村長!」


 こんなときにも物見櫓の上で村の周囲を見張ってくれていた青年が、慌てた様子で櫓から降りてきた。


「どうしたんですか?」

「集団が村に近づいてきています!」

「えっ?」







 村にやってきたのは、またしても難民と思われる一団だった。

 今度は四十人くらい。


 誰もが疲弊し切った様子で、それでも村の中に入れてあげると、こんなところに村があるなんて……と、驚いた顔をしていた。

 そして宴会のために用意されていた料理に、ごくりと喉を鳴らしている。


「初めまして。僕が村長をしているルークです」

「君のような子供が村長……? あ、いや、俺はドンガという」


 三十代と思われる男性がそう名乗ると、なぜかベルリットさんが声を上げた。


「ドンガ? おおっ、久しぶりじゃないか!」

「っ! お前は、もしかしてベルリット……っ!?」


 ドンガさんが目を丸くする。


「あれ? もしかしてお知り合いですか?」

「そうです、村長。ドンガは昔、頻繁に我々の村に遊びに来ていたことがあるのです。元々、ドンガの村とは交流があったのですが、どうやらドンガはうちの妹に惚れてしまったようでして……結局、フラれてその恋は実りませんでしたが」

「そ、そんな昔のことを言わなくていいだろうっ!? 今はこれでも妻と子供がいるんだよ!」


 どうやら二人は気安い間柄のようだ。

 ちなみにその妹さんは、別の村の男性に嫁いでしまったらしい。


「しかし、そうか……お前の村も……」

「ああ、そうだ。我々も村を捨てて逃げてきたんだ。そしてほんの数日前だ、苦労の末にこの村に辿り着いたのは」

「それにしても、こんな荒野に村があったとは……」


 ベルリットさんの知り合いというなら、話は早い。

 きっと何日もロクに食べていないだろう彼らに、僕は言った。


「詳しい話は後にして、よかったら一緒にどうですか? ちょうど収穫を祝う宴会をやっていたところなんです」

「な……い、いいのか?」

「はい、もちろんです」


 もちろん誰も反対する者はいなかった。

 自分たちと同じ境遇を味わった彼らを、快く受け入れたのだった。

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