第218話 どっちを応援すればいいのだ

 第七試合では、ドワーフの戦士バンバさんと、元盗賊の親玉ドリアルが戦うことになった。


 バンバさんは『剛剣技』というギフトを持ち、自分の何倍も大きな剣を振り回して戦う。

 気の弱いドワーフたちの中では珍しく豪快な性格で、日の当たる場所でも普通に生活でき、こうした大勢の観客の前に出ても大丈夫らしい。


 対するドリアルは『斧技』のギフト持ちで、身長二メートルを超す巨漢だ。

 ……ゴリちゃんに見慣れたせいで、ちょっとだけ小さく見えるけど。


 ドリアルの持つ戦斧も、普通の人間では持ち上げられないレベルの大きさで、言ってみればこれは超重量武器同士の戦いだった。


 そんな彼らは試合開始と同時、観客が期待した通りに互いの武器と武器をぶつけ合った。


 ガアアアアアアアアアアアアアンッ!!


 という、凄まじい音が響き渡り、そのあまりの衝撃に一瞬、会場が静まり返ったほどだ。

 みんなが我に返って、ようやく大歓声が轟く。


「はっ、やるじゃねぇか! オレと真正面から打ち合えるとはなぁ!」

「そっちこそ! ドワーフ一の怪力のおいらに引けを取らないなんて驚きだべ!」


 二人の戦いは、これまでの試合と比べればゆっくりした動きに見えた。

 けれどその分、超重量武器同士が激突する迫力で、会場が沸き立つ。


 決着は突然だった。

 何度もぶつかり合ったことで、お互いの武器に限界が来てしまったのだ。


 ほぼ同時に、二人の武器が砕け散ってしまったのである。


「ありゃりゃ、これではもう戦えないべ」

「ああ? 勝負はこっからだろうがよぉっ!」

「ぶっ!?」


 勝敗を決めたのは、武器が砕けて試合続行が不可能と考えたバンバさんに対し、ドリアルはステゴロ上等で試合を続ける気まんまんだったことだ。


 いきなり頬を殴られて吹き飛ぶバンバさん。

 慌てて身構えたけれど、良いのを一発貰ってしまったことに加え、体格の差が大きかった。


「オレの勝ちだ!」

「ふ、不覚だべ……」


 ドリアルが拳を突き上げ、バンバさんが気を失う。

 まさかの素手での殴り合いに発展した試合は、ドリアルの勝利となった。


 そして二回戦最後の第八試合。

 セリウスくんが勝利を収め、三回戦への進出を決める。


 こうして二回戦のすべての試合が終了し、いよいよ八名にまで絞られた。


「……どう考えても御前試合よりレベルが高い件について。一体どうやったら、こんな戦力を集められるのだ……?」

「お父様、それはきっと考えない方がよろしいですわ」


 その八名を、次の準々決勝での対戦カードとともに、おさらいしておくと、


 フィリアVSノエル

 ガイVSセレン

 ゴリティアVSアレク

 ドリアルVSセリウス


 となっている。


 ここまで勝ち上がってきただけあって、全員例外なく実力者。

 どれも楽しみな対戦だ。


 そして二回戦が終わったところで、この日の試合も終了。

 準々決勝は明日に行われる。


「ねぇねぇ、誰が優勝するかしら?」

「あたしはセリウスくんを応援したいわ! はぁはぁ」

「確かにイケメンだものね、セリウスくん。でも私はどっちかって言うとノエルくんかなー」

「へえ? ああいうのがタイプなんだー」

「まったく、二人とも見る目がないわね。どう考えてもアレク様一択に決まってるでしょ!」

「え、あんた、おじさん好きなの?」

「それならドリアルとかガイは?」

「ハゲは御免よ」

「「……」」


「なぁなぁ、誰が優勝すると思う?」

「ゴリティアだろ。残った八人の中でも、明らかに群を抜いてる」

「いやいや、絶対セレンちゃんだって。だって、あんな可愛いんだぜ?」

「可愛さは関係ないだろ……」

「そうだぞ。だいたい可愛いって言うなら、ゴリティアちゃんこそ……」

「「「え?」」」


 その日の夜、興奮冷め止まぬ観客たちの間では、こんな感じの優勝予測で盛り上がっていたとかいないとか。


「セレンもセリウスも揃ってここまで残るとは! さすがはわしの子供たちだ! はっはっは! ……む? しかし、もし二人とも決勝にまで進んだら……ど、どっちを応援すればいいのだ……?」

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