第216話 ただの筋肉ダルマじゃねぇぞ

 第九試合で、ゴリちゃんと『槍技』のランドくんが激突することとなった。


 ランドくんは早くからこの村の狩猟チームで活躍してくれている。

 年齢は十六歳で、若くて伸び盛りなのに加え、『槍技』のギフト持ちが何人もいる中にあって、すでに一、二を争うほどの使い手だった。


「くっ! こんなはずは……っ!」

「うふふ、なかなか良い槍捌きじゃないの。でも、アタシを満足させるには、もっと激しく突いてくれないとダメよぉ! って、アナタにはまだ早いかしらん?」


 そんなランドくんが繰り出す連続突きが、ゴリちゃんにはまったく通じていない。

 というか、素手で槍の穂先をすべて受け止めているのだ。


「お、おい、何だ、あの化け物は……? 見た目のことじゃねぇ。いや、見た目もだが……あの速度の突きを完璧に見切ってやがる。あいつ、ただの筋肉ダルマじゃねぇぞ?」


 ラウルが唖然するほどの技量に、会場も騒めいている。


 ……うん、やっぱり一番の優勝候補という僕の予想は正しかったみたいだ。

 というのも、実はこのゴリちゃん、村人鑑定を使ってみると、


ゴリティアナ

 年齢:36歳

 愛村心:中

 適正職業:筋肉美容師

 ギフト:拳聖技 美のカリスマ

 スキル:拳聖技LV7 美容LV9


 なんとダブルギフトで、しかも『剣聖技』や『盾聖技』に匹敵する『拳聖技』のギフトを持っているのだ。


「うふん、そろそろアタシの方から攻めちゃおうかしら?」

「~~~~っ!」


 ずっとランド君の攻撃を捌くだけだったゴリちゃんが、インパクトの強いウィンクとともに攻勢に出ることを宣言する。


「そぉれっ!」


 いきなり天高く足を振り上げるゴリちゃん。

 スカートの中のパンツが丸見えになって、会場にいた何人かが気を失う。


「どっせいっ!!!」


 直後、思いのほか野性味のある掛け声とともに、振り上げた足を思い切り地面に叩きつけた。


 ズドオオオオオオオオオオンッ!!


 かなり硬い素材で作ったはずのリングに蜘蛛の巣状の大きな罅が入り、轟音とともに会場が揺れた。

 ちょっ、どんな脚力してるの!?


「「「~~~~~~~~っ!?」」」


 観客が息を呑み、近くにいたランドは今の衝撃でリングの上にひっくり返っている。

 その隙にゴリちゃんは距離を詰め、槍の柄を踏みつけてしまった。


 ランドくんが必死に槍を持ち上げようとしてもビクともしない。


「よいしょっと!」

「な、何をっ!?」


 逆にゴリちゃんが、片手で軽々とランドくんを持ち上げてしまう。


「うふふ、もうちょっと強くなったら、アタシとまたヤりましょ♡」


 そのままゴリちゃんはランドくんを投擲した。


 細身だけれど、決して軽くないはずのランドくんが、あっさりとリング外へと飛んでいく。

 肩強すぎ!


 ランドくんは成すすべなく場外に落下し、敗北となってしまった。


「明らかに頭一つ抜けてる気がする……。ど、どうしよう。本当にゴリちゃんが優勝しちゃったら……」


 ぞくり、と背中がまた寒くなってしまう。







 それからも白熱した試合が続いた。

 さすが本戦まで勝ち上がってきた人たちばかりで、どの試合も瞬きしている暇もないくらいの好試合だ。


 第十二試合ではアレクさんが、第十三試合ではドワーフのバンバさんが、第十四試合では元盗賊の親玉ドリアルが、それぞれ二回戦へと駒を進めた。


 そして一回戦最後の第十六試合。

 そこで激突したのは、セリウスくんと元代官ダントさんの兵だったバザラさんだ。


 バザラさんは熟練の兵士らしく、相手の弱点を突くようないやらしい戦法で、開始直後は試合の主導権を握るほどだった。

 だけど最近さらに力を付けてきているというセリウスくんを前に、徐々に劣勢となっていき、最後は惜しくも敗退。


 こうして一回戦のすべての試合が終わり、二回戦の出場者全十六名が決定した。

 二回戦は翌日の開催なので、続けて観戦する予定の村外からの観客たちは、この村に宿泊することになる。


「ホテルたくさん作っておいてよかった。たぶん部屋数は足りるよね」


 ……もし泊まる場所がなかったら、みんなどうするつもりだったんだろう?


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