第161話 腐った性根を叩きなおしてこい
「はっはっは! それにしても愉快だな! あやつの城を、こうして我が物顔で歩き回るというのは! せっかくなら悔しがる顔を見たかったが、仕方がない。なにせ尻尾を撒いて逃げ出してしまいおったからのう! はっはっは!」
犬猿の仲であったドルツ子爵から領地を奪い取ったフレンコ子爵は、戦後処理を家臣たちに任せ切り、自らはその勝利の余韻に浸るように、占領した城で羽目を外しまくっていた。
その日も真っ昼間から酒を飲み、妻をフレンコ領へ残してきているのをいいことに、城内にいた若い女を捕まえ、寝室へと連れ込んでいる。
「お、お許しください……」
「くくく、よいではないか。今や私はこの地の領主。大人しくしていれば、お前の家族ごと取り立ててやるぞ」
元からこの城に仕えていた者たちの多くは、フレンコ子爵のもと城で働き続けることを許されたものの、それなりに見目の良い女性は、あらかた手を付けられてしまっていた。
フレンコ子爵は、昔から女癖が悪いことで知られる人物なのである。
「たたた、大変ですっ!」
「な、何事だっ!?」
そんな情事の真っ最中、ノックもなしにいきなり駆け込んできた家臣に、全裸のフレンコ子爵は声を荒らげた。
「貴様っ、許可もなく勝手に入ってくるとはっ……ただでは済まさぬぞ!」
「て、敵襲っ! 敵襲です!」
「何だと? まさか、ドルツ軍か……? はっ! あやつめ、我が軍に連戦連敗し、城を捨てて逃げ出したことをもう忘れおったのか。この短期間で軍を立て直すことなど、どう考えても不可能であろう。一体どこからどの程度の兵力で向かって来ているというのだ」
慌てている家臣とは裏腹に、フレンコ子爵は余裕の笑みを浮かべて嘲る。
「へ、兵数は定かではありませんっ! しかしっ……敵はすでに、城内に侵入してきているのです!」
「な、何だと!? 一体どういうことだ!? 領都内どころか、この城への侵入を許しただと!? それならなぜ今頃、報告してくるのだ!?」
「そ、それがっ……わ、分からないのです……っ! 城壁の警備兵からも、城周辺の警備兵からも、一切の報告がなかったのです!」
そんなことはあり得ないはずだった。
まずこの領都は周辺を城壁に護られている。
出入り可能な城門は、フレンコ兵が厳しく警戒しており、それを見つからずにすり抜けることなど不可能だ。
加えて城の周囲も、警備兵が多く配置されている。
強引に突破するのは難しく、ましてやいきなり城内に現れるなどあり得ない。
「ならば隠し通路か!? いや、そこもしっかり兵を置いていたはずだ! まさか、他にも……? だが、そう何本もあるような城とは思えぬ……」
ドルツ子爵が逃走に使っただろう隠し通路は、城内を隈なく調査することですでに見つけていた。
そこを通って侵入するのも難しいはずだ。
そのときだ。
部屋のドアが勢いよく開けられ、複数の人影が躍り込んでくる。
その中の一人に、フレンコ子爵は見覚えがあった。
「っ! き、貴様はっ……」
「久しぶりだな、フレンコ子爵」
「ドルツ子爵っ!? ば、馬鹿なっ、なぜここに貴様が……」
一度はこの城を捨てて逃げ出したはずの男が、フレンコ兵によって完全に占拠された城の中枢に姿を現した。
信じがたい状況に、もしかして自分は白昼夢でも見ているのではないかと混乱するフレンコ子爵。
「どうだ? この城を奪ってからの短い栄華は、十分に楽しむことができたか?」
「っ……へ、兵どもは何をしている!? とっととこいつを捕えんか!」
声を張り上げるフレンコ子爵だったが、いつまで経っても味方の兵たちが部屋に駆け込んでくることはなかった。
「残念だが誰も来ぬぞ。すでにこの城は占拠しておる。いや、占拠というのは適切な言葉ではないな。元は儂の城だ」
「あ、あり得ぬっ……一体、どうやって……」
「どうやってこの短期間で兵力を集め、城を取り戻したのか。知りたいか?」
「っ……」
「いいだろう。教えてやる。ただしその前に……」
それからドルツ子爵が口にした言葉の意味を、このときのフレンコ子爵にはまるで理解することができなかった。
「更生施設に入って、その腐った性根を叩きなおしてこい。この儂と同じようにな」
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