第97話 心中する覚悟はできております
「んー」
ダントさんの言葉に、僕は首をゆっくりと傾けた。
「さすがにラウルがこの村のことを知っても、どうこうしたりはしないと思うんだけど……?」
だってラウルは今やアルベイル家の次期当主だ。
重要な戦いで、初陣ながら大活躍したそうだし、今さらこんな荒野の村の存在を知ったところで、眼中にはないと思うんだけれど。
「それは甘いです、ルーク様」
「ミリア?」
「あの方のことです。もし少しでも自分の立場が脅かされかねないと知れば、必ず排除しようとするはずです。ましてやそれが、兄であるルーク様であるとなればなおさらでしょう」
「間違いないわね! あいつは態度がデカいくせに小心者だから!」
「セレンまで」
二人そろってラウルの評価は最底のものらしい。
「でも僕、別に脅かすようなことしてないと思うんだけど……」
「「「どこがですか!?」」」
あれ?
なぜかダントさんたちも含め、全員から即否定されたんだけど。
「この短期間にこれだけの村を築けるとアルベイル卿が知れば、ルーク様への評価は一変するでしょう。それをラウル様が恐れるのは当然です」
「そ、そうかな……?」
「実はすでに一度、私のところへ調査命令が来たのです。そのときはどうにか誤魔化すことができましたが、ここまで噂が広がってしまった今、そう遠くないうちにラウル様に知られてしまうことでしょう」
「え? それって大丈夫なんですか?」
つまりは虚偽報告をしたということだ。
もし見つかったら代官としての首が飛ぶ。
いや、下手したら処刑されるかも……。
「心配は要りません! ルーク様と心中する覚悟はできておりますから!」
「ええっ!?」
ちょっ、勝手にそんな覚悟されても困るんだけど!?
「ともかく、決して無視はできません。戦いに備えて戦力を増強し、同時に少しでもこの村の存在が知られるのを遅らせる必要があるでしょう」
と真剣な面持ちで言ってから、ダントさんはふっと笑った。
「もっとも、私などが言うまでもなく、とっくに戦力増強に取り組んでおられたようですが。ダンジョンによる冒険者の誘致や、高品質の武具の製造にポーションの生成、それに訓練場を建設し、兵士の育成にも力を入れているご様子」
……別にラウルとの戦いを見越してのことじゃないけどね。
ダンジョンも武具もポーションも、結果的にであって、元から意図したわけではないし。
ちなみに訓練場については周りからの要望を受けて作った。
特に魔法使いたちは、安全に魔法の練習ができる場所があると嬉しいらしい。
もちろんこんな世の中なので、村を護るために少しずつでも備えていかないと、とは思っていたけど。
◇ ◇ ◇
「ああっ……一体、セレンはどこに行ってしまったのだ……」
バズラータ家の領主、セデス=バズラータは頭を抱えていた。
アルベイル家に嫁ぐはずだった娘が家出し、それから一向に音沙汰がない。
家臣を調査に出したが、見つかる気配もなかった。
このままではアルベイル家との関係悪化を免れることはできないだろう。
「失礼します! セデス様! セレンお嬢様の居場所について、重大な情報を掴みました!」
「なにっ? それは本当か!?」
家臣からもたらされた報告に、セデスは思わず詰め寄る。
「実は最近、アルベイル領北方にある荒野……そこに新たな街ができたとの噂が領内で広がっているようでして。ここバズラータ領にまで聞こえてきているほどです」
「荒野だと? そんなところに街が……?」
と、そこでセデスはあることを思い出す。
「まさか、ルーク様が開拓を命じられた荒野か……っ!?」
「そうなのです。それも信じられない早さで発展し、すでに人口は万にも迫る勢いである、と」
「万!? ルーク様が追放されたのは、まだほんの一年前のことだろう!?」
「は、はい。……それで、もしかしたら、セレンお嬢様はそこにいらっしゃるのではないかと……」
「……あり得ぬ話ではない。しかし、ルーク様が本当にこの短期間にそれほどの街を築かれたとのだすれば……」
確かに有力な情報だ。
だが、これでかえって頭を悩まされることとなってしまう。
「もし今後、ルーク様が再び次期当主候補へと返り咲いたら……い、いや、さすがにそれはあるまい。ラウル様はこの度の戦いで、大きな戦果を挙げられたと聞く。もはやラウル様の優位は覆るはずもない……。となると、やはりセレンには……」
覚悟を決めたように一人頷くと、セデスは家臣に命じた。
「すぐにその街を調査してくれ。そしてもしセレンが見つかれば、何としてでも連れ戻してくるのだ」
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