第290話 見た目が無理っていうか

「「「ないわー」」」


 というのが、ほとんどの人の意見だった。


「ええっ? いやいや絶対美味しいって!」

「美味しいとか美味しくないとかじゃなくて、見た目が無理っていうか……」


 だって芋虫だ。

 仮に美味しかったとしても、食べたいとは思わない。


「む? 人間は幼虫を食べたりはしないのか? そういえば、村に来てから見たことないな」

「エルフは食べるの?」

「森にいた頃は食べていた。焼いても美味いが、生でもいける。噛むとプチっと皮が裂けて、ミルクのような液体が飛び出してくるんだ。ミルクのようで美味しいぞ」

「うえ……」


 想像したらかえって気持ち悪くなってしまった。


 だけど、前世でも昆虫食が流行っていたような記憶がある。

 どこぞの部族などでは普通に食べられていたし、昆虫食の中でも幼虫はまだ比較的、食べやすい部類に入るかもしれない。


「アタシも修行中によく食べていたわぁ」

「ゴリちゃんも?」

「昆虫はたんぱく質が豊富でしかも低脂肪だから、筋肉を付けるには最適よん♡ もちろんダイエットにもいいわぁ」


 それを聞いて、筋トレ組や体型が気になっている女性陣が興味を示し出す。


「おおっ、ゴリちゃんが言うなら間違いないな!」

「それなら食べてみたいかも!」

「村の食事が美味しくて、かなり太ってきちゃったのよねぇ」


 流れが来ていることを感じたのか、コークさんが畳みかけるように言う。


「心配しなくてもこの大きさだ。丸ごと調理することはない。食べるときに見た目で抵抗を抱いたりはしないだろう」


 確かにこのサイズともなると、元の姿のまま料理するのは不可能だ。


「それなら食べれるかも?」

「美味しいんなら食べてみたいな」

「コークさんが作るんだから、絶対美味しいに決まってる」


 ちょっ、もしかして食べたくない派が少数派になりつつある……?


「私も食べてみたいわ!」

「セレンまで……。僕は絶対食べたくないなぁ……」


 この芋虫の実物を見ていなければ、まだ食べれたかもしれないけど。




「(……今度こっそり村長に出す料理に混ぜて、食べさせてみるとしよう。ふふふ……)」




「……? コークさん? 今何か、すごく悪い顔してなかった?」

「む? そんなことはないぞ」


 何だろう……しばらくコークさんが出す料理は食べない方がいい気がした。


 早速そのワームを調理したいからと、コークさんだけはいったん村に帰し、僕たちは再び砂漠の上を公園で飛んだ。


「オアシスはどこにあるのかしら」


 公園に建てた物見塔の上から遠くを見渡し、セレンがオアシスを探している。


 目指すはこの広大な砂漠に点在しているというオアシスだ。

 そこでは人も暮らしているはず。


「あそこに魔物がいるわね。毒を持ってそうな蛇よ」

「恐らくバジリスクだろう。セレン殿の言う通り、奴の牙には猛毒がある」

「あっちは大きなカニかしら?」

「あれはカニではなくサソリ。デザートスコーピオンだな。鋏で獲物を捕らえ、尾に付いた猛毒の針で仕留める。身体も硬く、厄介な魔物だ」

「毒を持ってる魔物が多いのね」


 そのときセレンがこっちを見下ろしてきた。


「ちょっと、誰よ? 変な笑い方してるのは?」

「え? 誰も笑ってないよ?」


 周りを見回してみても、みんな首を傾げているだけだ。


「嘘言わないの。聞こえるでしょ?」

「……?」


 訝しみながらも、少し静かにしてみる。

 すると「うひゃひゃひゃひゃひゃ」という声が響いてきた。


 何の音か分からないけれど、確かに品のない笑い声のように聞こえる。


「ほら、聞こえたでしょ」

「聞こえた! でも、誰も笑ってないけど……」


 フィリアさんが言った。


「恐らくあそこの魔物だ。イビルハイエナといって、悪魔が笑うような邪悪な鳴き声をすることで知られている。獲物を見つけてもすぐには襲いかからず、この厳しい砂漠の環境下で弱るまで待ち続ける狡猾で慎重な性格だ。昼夜を問わずあの鳴き声を聞かされ続ける砂漠の旅人は、それだけで精神がおかしくなってしまうという」

「待って。あの魔物たち、何かを追いかけてない?」


 セレンが何かに気づいて指をさした方向。

 そちらに目をやると、人の集団らしきものが見えた。


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