第401話 ぐんぐん後ろを引き離してる

 魔境の森の中を突き進む参加者たちを、僕はマップ機能で追っていた。

 マップ上を点が動いていくので、現在地が丸分かりだ。


「えっと、ほとんどの参加者たちは、森の中心部を迂回していくみたいだね。でも、三人だけ今のところ真っ直ぐ進んでる。森の中心を突っ切っていく気かもしれない」


 その三人というのは、セリウスくんとディルさん、それにガンザスさんだ。


 優勝の大本命であり、僕が応援しているセリウスくん。

『二刀流』と『緑魔法』のギフトを持ち、その高い敏捷性はうちの村でもピカ一だ。


 先日の前哨戦ではディルさんと互角だったけれど、実はあのとき、セリウスくんは風の魔法をまったく使っていなかった。

 自分の走力だけで、トップタイでゴールしたのである。


「風の後押しを受ければ、最高速度は誰にも負けないはず」


 問題は木々の生い茂った森の中で、どれだけの速度が出せるかだけど……。


「でも、ぐんぐん後ろを引き離してる。邪魔な木々なんて関係ないみたいだ」


 そんなセリウスくんの最大の対抗馬が、やはり冒険者のディルさんだろう。

 本人は狩人を自称していて、隠密行動からの急襲が得意だ。


 ただその最大の本職は、やっぱり斥候だろう。

 なにせギフトは『索敵』で、敵の居場所を察知する能力に秀でているのだ。


「むしろこのレースではこれ以上ないギフトだよね。魔物に遭遇する前に回避できるんだから」


 荒野でのレースよりも、この森のレースで圧倒的な力を発揮するはず。

 走力ではセリウスくんに劣っているかもしれないけど、間違いなく強敵だ。


 そんな二人に続いて、最短ルートを詮索したのがエンバラの兵士、ガンザスさんだ。

 身体が大きくて走力こそ前の二人には及ばないものの、体力や耐久力を大きく引き上げてくれる『鉄人』のギフトが、この耐久レースでは非常に強力だ。


 前哨戦レースでも序盤は出遅れていたのに、みんなが疲れて速度を落とす中、後半で一気に追い抜いて上位二十人の枠に食い込んできた。

 もっと距離が長くてハードなこのレースだと、さらに実力を発揮するかもしれない。


「ただ……本当に足は遅いね……森の中は障害物だらけだし、それに苦戦してるのかも……」



    ◇ ◇ ◇



 魔境の森の中を、セリウスは風に乗って疾走していた。


 その速度は、荒野のレース以上だ。

 通常なら障害物のある森の中の方がペースが遅くなるはずだが、彼の場合は真逆だった。


 それもそのはず。

 荒野では使っていなかった風の魔法を解禁したのである。


 普通ならこの速度で進むと木に激突してしまいそうだが、風の流れに身を任せることで、セリウスは悠々と立ち塞がる木々を回避していく。

 彼の得意とする風の魔法が、この森のレースでこれ以上ない効果を発揮してくれていた。


 荒野レースでは互角だったディルとの距離が、あっという間に広がっていく。


「フィリアさんと同じ『緑魔法』のギフト……その力で勝利するなんて、もはや運命かも……そうしてぼくたちは結婚して……うあああああああああああああっ!」


 夢の未来を想像し、思わず絶叫してしまうセリウスだった。


「って、今は考えるな! まだ勝ったわけじゃないんだから! 『索敵』のギフトを持つディルさんだって、荒野よりも森の方が得意のはず……っ! 絶対に油断しちゃいけない!」


 必死に頭を振って、目の前の戦いに集中する。

 と、そのときだった。


「っ……」


 前方に巨大な岩を発見するセリウス。

 さすがにこのままだと激突してしまうので、風を操作して上昇気流を作り出すと、それに乗って思い切り跳躍した。


 一気に岩の上を飛び越えていく――


 バンッ!


「え?」


 突如として巨岩の一部が炸裂。

 無数の破片が逆向きの雨のごとく降り注いできた。


「があああっ!?」


 咄嗟に腕でガードするも、全身に破片が当たって激痛が走る。

 そのまま宙を舞って地面に落ちてしまう。


「ぐ……こ、こいつはっ……」


 大地に膝をつくセリウスを見下ろしていたのは、巨岩――ではなく、岩に擬態したドラゴンだった。


「グルアアアアアアアアッ!!」

「ロックドラゴン……っ!?」


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